見た目は純白の鷹だが、その大きさは人間どころか、牛一頭を掴んで飛び去れるくらいには大きい。そんな魔物がいきなり案内所の前に降りてきたのだから、一般人が慌てふためくのも当然だ。
「ありゃあ魔物じゃねえか!」
「あの冒険者が呼んだのか!?」
「ま、ま、魔物でござるか!? 師匠、魔物と知り合いなのでござるか!?」
ついでに青い髪を逆立てて警戒するカレンに、フォンは笑って言った。
「まさか。ミハエルは僕が飼い慣らしている魔物だよ。普段は放し飼いにして、街やその周辺を飛び回って偵察してもらってるんだ」
ペットとして犬猫を飼うのと同じ調子で告げるが、どう考えても規模が違う。
「でも、これってバトルホークだよね? 人の言葉を理解するほど知能が高いけど、絶対に人に懐かないし好戦的……というかあたし、こんなに近くで初めて見たよ」
クロエの言う通り、バトルホークは非常に危険な魔物だ。
鋭い瞳、巨大な嘴、広げれば人を横二つに並べても足りないほどの翼と高い知能。討伐依頼を拒む冒険者がいるほどの魔物であり、サーシャが警戒するのも頷ける。
「こいつ、珍しくて凶暴な魔物。でも、敵意、感じない」
「僕の命令以外で、人は絶対に襲わないように調教してるからね。ミハエル、この辺りでクラークを見なかったかい? 街にいる勇者だ、何度か見ているだろう?」
だが、フォンが長年飼い慣らしたミハエルは違う。人間の質問すら理解しているようで、白い翼を揺らしながら首を縦に振った。
「街の外に出たのか。どの方角に行ったかは分かる?」
もう一度頷いたミハエルの様子を見て、カレンは何かを察したようだ。
「師匠、まさか……」
振り向いたフォンの決意は固まっていた。
「クラーク達は街にはいない。街の出口とは別の、小川が通っている方角に出て行ったみたいだ。やっぱりどう考えてもおかしい、もしも万が一の事態が起きていれば……」
フォンはやはり、クラーク達の安否を確かめる気でいた。
自分の仮説一つで仲間を引き回すのはどうにも気が引けたが、自分達を何度も殺そうとした相手の身を案じるフォンの甘さなど、もうクロエ達からすれば慣れっこだ。
「分かった。あたし達はフォンについてくよ」
クロエ、サーシャ、カレン。誰一人として怪訝な顔などしていなかったし、フォンが納得するまで同行すると、微笑みを浮かべた笑顔に書いていた。
フォンもまた、安心した様子で笑みを返した。
「ありがとう、クロエ。じゃあミハエル、僕達をできる範囲まで案内してくれ」
「できる範囲って、そこから先はどうするの?」
「そこは忍者の面目躍如、僕達は追跡と追尾のプロフェッショナルだ。方角さえ分かれば、あとは僕がクラーク達を追いかけるよ――」
作戦を決め、いざ街の外へと移動しようとしたフォン達だったが、明後日の方向から聞こえてきた声が彼らの足を止めた。
「――あら、私を差し置いて何かを探しに行くの? 寂しいわね、フォン」
ひらひらと手と腕の武器を振りながら歩いてくるのは、アンジェラだ。
二又の眉を動かしてけらけらと笑う彼女を見たフォンは、ちょうど良かったと言わんばかりに彼女に向き直ると、同じく手を振って話しかける。
「アンジー、いや、僕も今から君を探しに行こうとしてたんだ。勇者パーティが事件にかかわって、トラブルに巻き込まれた可能性が……」
しかし、アンジェラは話を最初から聞いていたかのように首を横に振り、遮った。どちらかと言えば、フォンが未だに群衆が騒めくくらい大きな鷹を飼い慣らしていることの方が気になって仕方がないようだ。
「いいわ、事情は彼らを追いながら話しましょ。それよりも、調教師でもないのに随分と大きな鷹を飼い慣らしているのね?」
「昔取った杵柄ってやつだよ……ミハエル、案内してくれ」
フォンはそうとしか言わなかった。今は納得したのか、アンジェラは言及せずに肩を竦めてから、舞い上がった鷹が静かに飛び行く方角へと歩き出した。
「じゃあ、そういうことにしておきましょ。行くわよ、皆」
「あんたがリーダー気取ってんじゃないの。行こ、フォン」
まるで自分がリーダーだと言わんばかりの態度で先陣を切るアンジェラの態度、その他諸々が気に食わなかったのか、クロエがフォンよりも先にすたすたと前に出てゆく。
フォンの目には、群衆を掻き分けて街の南へと向かう二人が、積極的に事件解決に協力してくれる――クラーク達の身を案じてくれるように見えて仕方なかった。口は悪くてもクロエの根幹に優しさがあり、アンジェラも人命を優先してくれると思えた。
(なんだかんだで、人の命を優先してくれる。良い仲間に恵まれたな、僕は)
内心で感動するフォンの後ろにつくサーシャとカレンには、そうは見えなかった。
アンジェラは己の目的の為に、クロエはフォンとの距離感を懸念しているようにしか見えず、実際忍者にへばりつく女騎士の間に弓手が割り入っている様子だ。
「……アンジェラとクロエ、争ってる?」
「みたいでござるな。理由は知らんでござるが、とにかく拙者達も行くでござるよ」
こうして五人は、ひとまずミハエルについて街の外へと向かう運びとなった。
「ありゃあ魔物じゃねえか!」
「あの冒険者が呼んだのか!?」
「ま、ま、魔物でござるか!? 師匠、魔物と知り合いなのでござるか!?」
ついでに青い髪を逆立てて警戒するカレンに、フォンは笑って言った。
「まさか。ミハエルは僕が飼い慣らしている魔物だよ。普段は放し飼いにして、街やその周辺を飛び回って偵察してもらってるんだ」
ペットとして犬猫を飼うのと同じ調子で告げるが、どう考えても規模が違う。
「でも、これってバトルホークだよね? 人の言葉を理解するほど知能が高いけど、絶対に人に懐かないし好戦的……というかあたし、こんなに近くで初めて見たよ」
クロエの言う通り、バトルホークは非常に危険な魔物だ。
鋭い瞳、巨大な嘴、広げれば人を横二つに並べても足りないほどの翼と高い知能。討伐依頼を拒む冒険者がいるほどの魔物であり、サーシャが警戒するのも頷ける。
「こいつ、珍しくて凶暴な魔物。でも、敵意、感じない」
「僕の命令以外で、人は絶対に襲わないように調教してるからね。ミハエル、この辺りでクラークを見なかったかい? 街にいる勇者だ、何度か見ているだろう?」
だが、フォンが長年飼い慣らしたミハエルは違う。人間の質問すら理解しているようで、白い翼を揺らしながら首を縦に振った。
「街の外に出たのか。どの方角に行ったかは分かる?」
もう一度頷いたミハエルの様子を見て、カレンは何かを察したようだ。
「師匠、まさか……」
振り向いたフォンの決意は固まっていた。
「クラーク達は街にはいない。街の出口とは別の、小川が通っている方角に出て行ったみたいだ。やっぱりどう考えてもおかしい、もしも万が一の事態が起きていれば……」
フォンはやはり、クラーク達の安否を確かめる気でいた。
自分の仮説一つで仲間を引き回すのはどうにも気が引けたが、自分達を何度も殺そうとした相手の身を案じるフォンの甘さなど、もうクロエ達からすれば慣れっこだ。
「分かった。あたし達はフォンについてくよ」
クロエ、サーシャ、カレン。誰一人として怪訝な顔などしていなかったし、フォンが納得するまで同行すると、微笑みを浮かべた笑顔に書いていた。
フォンもまた、安心した様子で笑みを返した。
「ありがとう、クロエ。じゃあミハエル、僕達をできる範囲まで案内してくれ」
「できる範囲って、そこから先はどうするの?」
「そこは忍者の面目躍如、僕達は追跡と追尾のプロフェッショナルだ。方角さえ分かれば、あとは僕がクラーク達を追いかけるよ――」
作戦を決め、いざ街の外へと移動しようとしたフォン達だったが、明後日の方向から聞こえてきた声が彼らの足を止めた。
「――あら、私を差し置いて何かを探しに行くの? 寂しいわね、フォン」
ひらひらと手と腕の武器を振りながら歩いてくるのは、アンジェラだ。
二又の眉を動かしてけらけらと笑う彼女を見たフォンは、ちょうど良かったと言わんばかりに彼女に向き直ると、同じく手を振って話しかける。
「アンジー、いや、僕も今から君を探しに行こうとしてたんだ。勇者パーティが事件にかかわって、トラブルに巻き込まれた可能性が……」
しかし、アンジェラは話を最初から聞いていたかのように首を横に振り、遮った。どちらかと言えば、フォンが未だに群衆が騒めくくらい大きな鷹を飼い慣らしていることの方が気になって仕方がないようだ。
「いいわ、事情は彼らを追いながら話しましょ。それよりも、調教師でもないのに随分と大きな鷹を飼い慣らしているのね?」
「昔取った杵柄ってやつだよ……ミハエル、案内してくれ」
フォンはそうとしか言わなかった。今は納得したのか、アンジェラは言及せずに肩を竦めてから、舞い上がった鷹が静かに飛び行く方角へと歩き出した。
「じゃあ、そういうことにしておきましょ。行くわよ、皆」
「あんたがリーダー気取ってんじゃないの。行こ、フォン」
まるで自分がリーダーだと言わんばかりの態度で先陣を切るアンジェラの態度、その他諸々が気に食わなかったのか、クロエがフォンよりも先にすたすたと前に出てゆく。
フォンの目には、群衆を掻き分けて街の南へと向かう二人が、積極的に事件解決に協力してくれる――クラーク達の身を案じてくれるように見えて仕方なかった。口は悪くてもクロエの根幹に優しさがあり、アンジェラも人命を優先してくれると思えた。
(なんだかんだで、人の命を優先してくれる。良い仲間に恵まれたな、僕は)
内心で感動するフォンの後ろにつくサーシャとカレンには、そうは見えなかった。
アンジェラは己の目的の為に、クロエはフォンとの距離感を懸念しているようにしか見えず、実際忍者にへばりつく女騎士の間に弓手が割り入っている様子だ。
「……アンジェラとクロエ、争ってる?」
「みたいでござるな。理由は知らんでござるが、とにかく拙者達も行くでござるよ」
こうして五人は、ひとまずミハエルについて街の外へと向かう運びとなった。