そんな状態で季節は秋、9月の半ばになってしまった。休日無しで仕事したので、そろそろ身体も辛い。そんなある日の午前中、会社で榎本さんに朝の挨拶をしようとしたら、途端に声が出なくなった。
「おはよ……」
あれっ?挨拶が出来ない。まさか。
「おはよう、今野さん、秋だというのに今日も暑いね」
「そうで……」
ダメだ。声が出ない。私は慌てた。そうして誤魔化すかのように椅子に座ると、パソコンの電源を入れた。9時まで時間があるので、どうしようか考える。隠れてインターネットで調べてみた。”声が出ない””ストレス”で検索してみる。そうすると検索結果が出て来た。失声症と出ている。

何?失声症?

私はとても焦った。取り合えずトイレに行って発声練習をしてみようと思った。次から次へと事務所の人間が出勤してくる。挨拶をしたかったのだが、やはり声が出ない。
「おは……」
「あっ今野さんおはよう御座います」
「おは……よ……」
どうしよう。急いでトイレの個室に入る。

「あいうえお」と言ってみようと思った。しかしやはり無理であった。困った。私は事務所へ帰ると林さんが出勤しているのが見て取れた。林さんに声が出ない事を伝えなければならない。机に戻ると仕方がないのでパソコンからメールを林さんに打った。