——ありえない。
 
 私がいじめられているとか、それが原因で泣いているとか、そんなことが意味なくなるくらい、摩訶不思なことが目の前で起こっている。
 
「どうしたー?あれ……動かなくなったぞ。え、まさかの無反応?いや、今回は上手くいったと思ったんだけどな」

 そういって、私の目であたふたしてる彼には——足がなかった。切断されているとかではなく、途中から薄くなるようにして膝から下が消えているのだ。見間違えとかではなくほんとに。彼は私の顔の前で手を振ったりと、私に呼び掛け続けている。

 ようやく、私は驚きから体が解かれて、口が動くようになった。かすれた吐息のようなものから、徐々に言葉になっていく。

「ぇ……、もしかして、あなた——、お化け?」

ようやく、口が開けた。

「うん、そうだよ!」

 自称お化けは満面の笑みで返事を返す。私はここで人生初めて、絶叫した。もうそれは、学校を丸ごと揺らさんとばかりに。遠ざかっていく意識の中、今までの記憶が走馬灯のように沸き上がってきた。

 私、田中結奈は今までの人生は最悪だったと思う。他の人と比べたことがないから、ほんとに最悪なのか?とか、聞かれてしまったら、自分も悩む。

 最悪と思ったのは中学に上がってからだった。その頃の私は、自分の顔に自信が持てず、前髪を極限までに伸ばし、マスクをして顔を隠すような生活をしていた。それで、顔は隠せたのは良かったのだが、友達という人が誰もいない3年間になった。

 このままでは、私の青春が消えるッて思った。私は3年生から死ぬ物狂いで受験勉強をし、今の高校に来た。まず、中学の同級生と離れるために遠距離の学校を選んだ。この高校の通学に私は二時間かけている。そして、春休みのころに今風の普通の女子高生をネットで調べ上げ、それに近づけた。それだけの努力をし、青春を手に入れようとしたのだ。今では、あのころとは違い、どこにでもいる女子高生になっていると思う。
 
 しかし、思いどおりに行かないのが私の人生だ。制服がかわいくて地元から距離の離れた学校を選んだのはいいものの、偏差値が高かった。私は必死の勉強で何とか入れたレベル何ので、前回のテストでいくつか追試になってしまった。そこで、一緒に追試を受けたやつこそ、私が泣いていた原因だ。

「なんで、こんなことに!」

 走馬灯で蘇ってくる記憶が辛すぎて、飛び跳ねるようにして起き上がった。

「え?何で旧体育館倉庫で寝てるんだろ?たしか……」

 頭を必死に回して、今ここにいる理由を探し出す。少しづつ直前のことを思い出してきた。

「私は、あいつにいじめられて、ここで泣いてて……学校間違えたのかな?とか考えこんでたら」

「どろどろ……ばあ!」

「そう、こんなふうに足のない男の人が出てきて……って、まだいたぁ!」

「いや、急に倒れこんだから驚いたんだよ?」

「そもそも、普通に話してくるけど。何かのマジック?そこまで私の事をいじって楽しい?」

「いやいや、マジックじゃないって!ほら」

 彼はマジックじゃないと言い張った。様々な説明してたが、私はそれでもほんとなのか疑わしかった。説明では分かってもらえないと思ったのか、彼は私に迫ってきた。そして、私をそのまま通り過ぎていった。言葉の通り、私の身体を通過したのだ。その時、背中がぞわっとした。まさに、恐怖したときのように体が縮こまる感覚だった。

「まさか。ほんとにお化け?」

「そうだよ、さっきから説明してるじゃん。正確には地縛霊ってやつだね!」

「あ、はい……」

 お化けがここまで陽気だと、状況に頭が追いつかな過ぎて怖い感情なんて出てこなかった。ようやく、落ち着いて彼の姿を見ることができた。見た目はいたって普通の男子高校生といった感じだ。少し背が低めで、前髪は目にかかっている。それ以外は制服も着て、足さえ透けていなければ、ここの生徒だ。

「それで、なんで君は泣いてたの?」

 お化けが、話しかけてくる。

「え?何でそれを、あなたに言わないといけないんですか」

「僕だったら、力になれるかもしれないよ」

 なぜ、お化けが私の手伝いをしてくれるのかが、理解できず首を傾げた。まさか、願いを叶えた代わりにお前の命を———なんて、言ってくるのだろうか?

「あー、これは僕の方から説明した方が良さそうだね」

 そこから、お化けからの話が始まった。

「さっき言ったと通り僕はここの地縛霊だよ。ここって言うのは、学校の敷地じゃなくて、今、僕たちのいるこの部屋『旧体育館倉庫』ね。僕はこの部屋の外に一歩も出ることができない」

「え、狭くない?」

「そう、狭いんだよ!」

 つい、思ったことが口に出てしまった。

「話続けるね」

「うん」

「ま、僕は色々あって死んで、ここの地縛霊になったんだよ。色々はそんなに重要ではないから省くね。君、人は死んだらどこに行くと思う?」

 突然、お化けから質問を振られる。

「え、あの世じゃないの?天国とか地獄とかいうやつ。あと、私は君じゃなく、名前があって——」

 お化けは、私の言葉を遮るように、口をはさんできた。

「おっと、地縛霊に名前を教えるのはナンセンスだね。もちろん、他の妖怪とか悪い奴にも絶対に教えたらいけないよ、悪いことされちゃうからね!」

「うん」

「分かれば、よろしい。それで、正解は“地獄に行くか、生まれ変わるか”なんだ」

「え、そうなの?」

「そうだよ、死人が言っているから作り話ではないよ。それで、僕はその例外なの、生まれ変わることはできないし、地獄に行くほど悪くはない」

「だから、今は地縛霊になっていると」

 私の言ったことはあっていると、お化けは首を縦に振る。そして、ここからが重要な話のようで人差し指をピンと立てた。

「ここからが、本題ね。僕が生まれ変わるには条件があって、『人助けをする』この条件を達成できたら。自縛から解かれて生まれ変わることができるんだ。だから、僕は君を助けたいと思ってるんだ」

「なるほど。私の願いを叶えたら、自分はこの狭い部屋から出れると」

「まあ、そういうこと」

 存在自体が胡散臭いから話も疑わしかったが、どうにも彼が嘘をついているようには思えなかった。これで、私の願いが叶うなら、まだこの学校で青春を求め続けることができるのでは?——ふと、自分のスマホに手を伸ばした。今、何時なのかって。

「わああああ!電車が来る!」

「ど、そうしたの?」

「早くしないと、電車に乗り遅れるの!」

 今の時間は、6限の授業が終わってから20分を過ぎたところだった。あと少しで、ホームに電車が来てしまう。これを逃すと、家に帰れるのは9時を過ぎてしまい、別のお化けと対面することになりかねない。すぐさま、周りの荷物をまとめ立ち上がった。

「じゃあ、私行くから!」

「え、僕の話は?」

「明日、聞くー」

 その言葉を、残してこの部屋から飛び出した。お化けは本当に、旧体育館倉庫から出られないらしく、追ってくることはなかった。

 翌日、旧体育館倉庫に向かうと、本当にお化けがいた。

「ほんとに来てくれたんだ!」

 お化けは私を見付けると、嬉しそうに近づいてきた。歩いて近づいてくるような感じではなく、すーっと滑るように。

「でも、今って授業やってる時間じゃない?」

「あー、副教科の授業だからいいの。それに面倒だし……」

「そっか、君がいいのならいいよ。それで、どう?」

 昨日話した、お化けに手伝ってもらうかの解答を聞いているのだろう。

「せっかくだし、お願いすることにする。私もお化けのいる学校に通いたくないしね」

「ありがとう!それで、僕は何をすればいいのかな?」

 お化けは本当に嬉しかったのだろう。私の手を取ろうとして、すかっと空を切った。私の手を通過する彼の手を見て、ほんとに彼はお化けなのだと理解した。

「まず、私の話を聞いてもらっていいかな?」

「もちろん、さ、ここに座って」

 お化けは私を窓に案内した。窓際のスペースには古ぼけたパイプ椅子が一脚置かれている。

「こんなところに、椅子なんてあった?」

「ああ、それはね、僕が用意しておいたんだよ!」

「え、物を動かせるの?私には触れることもできないのに?」

「そうだよ、人はさわれないけど。この部屋にある物だったら、動かせるよ。ほら、ポルターガイストは僕らの表現方法のひとつだからね」

「へー、そうなんだ」

 今日、このお化けと話してみて再認識したが、彼と話しているとこの世の森羅万象をすべて知れてしまう気がした。だって、ポルターガイストがなんで起こってるかなんて、今でも言い争いが起きているのだから。それの答えを彼によって私は知ってしまった。まあ、嫌なことでもないから、ひとまず置いておこう。

 まずは本題——お化けの用意してくれた、椅子に腰を下ろす。

「私をいじめてくる奴を懲らしめてほしいの」

「もしかして、昨日泣いていたのと関係があったりする?」

「関係があるもないも、彼女が張本人だよ」

 私の目で、話を聞いていたお化けは、体の姿勢を直し私と向き合った。断られるかと思ったが、本当に引き受けてくれるようだ。

「なるほどね、まずはその子のことを教えてくれるかな?」

 それからざっと、昨日の走馬灯の内容を説明してから、彼女の説明に入った。

 私をいじめてくる彼女は名を河合陽葵という。彼女は勉強においてかれた、どこの高校でもいる不良だ。まず、彼女と初めてかかわったのは、追試の教室で隣に座ったことだった。

 もともと私は彼女のことを知っていた。この学校で髪の色を抜いている人は居るが、誰もが地毛と言い張れる程度までだ。実際、私も少し抜いている!しかし、彼女だけは違う、がっつり色も抜いているし、ピアスの見せつけるようにジャラジャラとつけている。ちなみに、私も髪で隠しているがピアスは開いている!そんなことで、同じ学年で彼女を知らない人は居なかった。

 彼女がとなりに座ったときは、黙っていれば特に何もしてこないだろうと思っていた。しかし。追試の間ずーっと視線を感じていた。彼女が私を横からにらみつけているのだ。

「なあ、お前名前なんて言うの?」

 追試中に話しかけられた。大きく張り上げた声ではなく、声のボリュームを絞った声だった。不良からの質問を無視するという選択肢を私はもっていなかった。

「……っと、田中結奈です」

「ふーん、ゆいな、ね」

 そこからだ、彼女が私に絡み始めたのは。

「だからね、悪いものに名前を教えちゃいけないんだよ」

「私だって、分かってるよ」

 話の途中にお化けが茶々を入れてくる。こうなるってことが追試の時に分かっていたら、もちろん無視しただろう。

「いいから、話をきいて!」

 私はおられた話の腰を、元に戻し話を再開させる。

 それから、私は彼女に目を付けられるようになった。違うクラスだって言うのに、暇があればあたしに絡んでくるようになった。これだけならいいのだが、彼女は私の秘密を知ってしまった。どこから手に入れたのは分からないが、私の中学時代の写真を見せつけてきたのだ。すぐさま消すように頼んだが、もちろん消してくれるなんて優しいことはなかった。

「きっと、この後はこれをネタにして、私をパシリとかさせるんだぁ!」

「彼女のことは分かったけど、何か問題あるの?確かに友達とは言えなそうな状況ではあるけど」

「問題ばかりよ。あいつが絡んでくるようになったせいで、せっかく友達になれそうな子だっていたのに、話もかけてくれなくなったの」

 あー、話してたら、思い出してきてイライラしてきた。一発、手を出してやろうかと思ったが、私にそんな度胸がないことを思い出した。

「それで、昨日泣いていたのは?」

「それは、彼女が私の中学時代の写真を持っていたからよ」

「そんなになのか?」

 ポケットの中から、スマホを取り出して画面をつける。自戒と書かれた写真ファイルを開き、中学生の時の写真をお化けに見せる。

「うん——これは、大問題だわ」

 お化けに見せた後、自分は画面を見ないようにして写真のファイルを閉じる。

「それで、彼女に写真を消してもらうことが目的でいいの?」

「そう、でも、あと一つ彼女をこらしめて、もう私に近づかないようにする」

「懲らしめるって、どうやって?」

「それは、これから考える」

 それから、河合陽葵をこらしめようの作戦会議が始まった。もちろん、勉強がぎりぎりな私は授業に出て、少し余裕のある副教科の時に授業を抜け出し旧体育館倉庫へ向かった。

「あれから、考え始めて1週間は立つけど、まだ絡まれてるの?」

「もちろん、毎日のようにね」

 今日も、授業を抜け出してお化けと作戦会議をしていた。せっかくお化けが居るので、ポルターガイストを使うことに決めた。しかし、ポルターガイストを使うとなるとこの部屋に彼女を呼ばなくてはいけなかった。そして、彼女を驚かせたところで、写真も消してもらえそうにない。どうしても、ふたつを同時にこなす方法が思いつかなかった。

「どーしよっか?」

「あなた、ほんとに考えてるの?」

「もちろん!」

 このお化けは私を手伝ってくれるのはいいけど、霊体であること以外はただの人間である。なので、天才とかそんなオプションを持っているわけではなかった。ほんとに手伝っているだけである。

「あ、そろそろ。授業始まるから私行くね」

「はーい、勉強頑張って!」

「うん」

 そして、このお化けとの環境を楽しみ始めている自分がいるのも、作戦が進まない原因なのかもしれない。

 この日の授業は最悪だった。他クラスとの合同授業とは聞いていたが、まさか彼女のクラスだとは。そして、追い打ちをかけるようにペアになって二人で問題を解く内容が混ざっている。もちろん、私のペアは彼女になった。

 先生が指定したページの問題を二人で解いていく。この学校に入学できただけはあって、彼女は普通に問題を解いていた。むしろ、私よりも簡単に解いている。何とか時間内に解き終わることができた。周りは、まだ解いているところと、解き終わって談笑しているところが半々の状態位だ。

「なあ、結奈」

「は、はい……何でしょうか?」

「この学校に幽霊が出るって、噂知ってるか?」

 もしかして、あのお化けのことだろうか?だとしら、噂になるのも分からなくはない。でも、噂でお化けがいるなんて聞いたことはなかった。

「き、聞いたことないです」

「そうね、一緒に確かめに行かない?明日の放課後とか?」

「えーと、私電車があるので……」

 できるだけ彼女に関わりたくないので、何かしら理由をつけて離れようと考えた。そして、電車を理由にして、私の中で最大の抵抗を見せる。

「明日は早下校だから、電車は大丈夫だな」

 私の抵抗はあっけなく消えてしまった。それでも、なるべく避けたいので、他の理由を探す。

「え、でも……」

「ほら、明日ちゃんと来たらこれ消してやるよ」

 そういって、見せてきたのはスマホの画面で、そこには例の写真が映っていた。

「行きます!」

 と私が叫んだとき、授業は先生の解説に移っていて、この教室で話している生徒は私だけだった。先生に軽く注意を受けながらも、舞い込んできた最大のチャンスに手が震えていた。 

 これは、明日作戦を実行しなければ!

「ということで、明日実行することになりました」

「だから、いつもは来ない放課後に、君が来たわけだ。……電車はいいの?」

「今日は電車とか言ってる、場合じゃないから……」

 内心はものすごく帰りたい。だが、明日の失敗はもう二度とあの写真を消してもらえないことを意味する。だから、今日は作戦を練らなければいけない。

「それにしても、こんなにも僕たちにとって、都合のいいことがあるんだね……逆に騙されてない?」

「そ、そんなことないよ」

「ほんとに?」

 確かに、言われてみれば都合が良過ぎるかもしれないが、チャンスはチャンスなのだ。ここは信じるしかない。

「いいから、考えるよ!」

「そうだね、考えすぎも悪くない、明日に向けて頑張ろう!」

 もともと考えていた、作戦を基本に明日用を作った。旧体育館倉庫に彼女が入ってからはお化けの役割だ。あとは、私がどのようにして上手く、ここに連れてくるか。そこは明日の自分が頑張るしかない。

 そうして、次の日を迎えた。放課後、彼女に指定されたところへ向かうと、彼女はまだきていなかった。まさか、ほんとに騙された?と思ったが彼女は私から少し遅れて、集合場所に集まった。

「来ないかと思った」

 彼女は黒いマスクを下げて、口を出し笑みを見せる。

「来たから、消してよ、あれ」

「んー、まだかな。だって今消したら、帰っちゃうかもしれないじゃん」

「え、それじゃあ、話が」

「早くいくぞ」

 彼女は私の手をつかむと引っ張るように歩き始めた。消してくれなかったのは、予想外だったが、計画のためにもここは黙ってついてくことにした。

「どこに、行くの?」

「とりあえず幽霊が出そうなところ」

 なかなかにアバウトな返答が帰ってきた。まあ、夜に探そうとしない時点で真剣ではないのかも。あと、いつまで手をつないでるんだろう。

 探し方もアバウトだった。学校中を歩き回っては幽霊がいそうなところを見て回るだけ。その間2人に会話は全くなかった。1時間、学校中を回ったところで、最初に集合したところに戻ってきた。

「じゃあ、これ消すね」

 集合したところに戻ったところで、あの写真を彼女はちゃんと消してくれた。

「あ、あの」

「なに?」

 勇気を出して、声をかける。彼女のやりたいことは終わったのかもしれないが、まだ、私のやりたいことは終わっていない。

「もう一個、幽霊出そうなところ知ってますよ」

「そう、じゃ行ってみよっか」

 今度は私が彼女の前に立ち歩く。もちろん向かう先はあの部屋だ。

「へーこんなところ、うちにあったんだ」

 旧体育館倉庫に連れてきたところ、彼女は目新しい反応をした。今までここの存在を知らなかったらしい。外見をまじまじと見てから、中に入っていった。中に入るときの歩き方はおっかなびっくりといった感じだ。

 彼女が入ったところで、私は勢いよく扉を閉める。

「え!?何?」

 部屋の中から、声が上がった。閉める直前に部屋の中にいる、お化けにはアイコンタクトを飛ばした。ここからは彼の仕事だ。

そして最後に私が、先生に「河合が入っちゃいけないところに入ってくのを見ました」と伝えれば完璧だ。これで、彼女が絡んでくることはなくなるだろう。

 電車の時間もあったので、私はこのまま帰ることにした。もしも、彼女が私のことをチクったとしても、脅されてたとでも言っておけばいいだろう。

 次の日、計画の通りに教室では彼女の話でもちきりだった。小耳にはさんだことでは、あの後、色々あったらしく彼女は停学処分を受けたらしい。これで、私の目指す青春が送れることだろう。

 その後、ふらっとあの部屋に行ってみると、彼女のこともあってか、新しく鍵が新調されていた。もう、この部屋に入れないかと思うと、少し心がきゅっと締め付けられた。扉の窓から、ちらちらと部屋の中を覗いてみたりする。ちゃんと生まれ変われたのかなと、彼の姿がないか探した。

「……やっぱり、名前くらい教えとけばよかったなぁ」

 私の中に後悔に近い気持ちが出来た。そのとき、壁に書かれた文字が目に入ってくる。特に特徴のない文字だが、大きくはっきりと書かれている。昨日はあそこには落書きはなかったはずだ。それを読んで、私は笑ってしまった。

『生まれ変わったら、君に会いに行く!
             じゃあ、また!』

 こんな、ご機嫌なお化けにあったことは、私は一生忘れないだろう。