ハク曰く、天気がよかったので、仲間たちから離れ、お気に入りの場所で昼寝をしていた。
 すると突然、炎魔法で攻撃を受けた。
 お気に入りの場所は、仲間の結界があり、周囲の警戒もせず無防備に寝ていたので、防御態勢をとることもできず、直接攻撃を受けてしまった。
 その威力に、一瞬にして気を失ったとのことだ。

 魔力色が残るほどの攻撃だ。
 おそらく生け捕りにするため、加減をしたはずだ。それができる実力を持ち合せているのだ。
 今の俺では、圧倒的に実力と経験が不足している。
 背筋が冷えた。
 ハクを助けたあの時、冒険者に出くわしていれば、逃げることもできず、完全に負けていた。
 口封じのために殺されていたか……。
 ハクの回復状況をみて有能と判断され、捕縛される。いや奴隷として売られる可能性もある。
 あぁーー。考えもなしに、MPをほぼ使い切った点は、反省だ。
 MP回復薬も、最悪の状況を考えれば、悪目立ちなどとは言っていられない。今後は必ず所持しよう。

 ハクの話に戻る。
 気づいた時には檻に入れられ、首に拘束具をはめられていた。
 檻の中は暗く、ゴトゴトと揺れていた。
 攻撃を受けた傷は、見た目よりもひどくなく、動ける程度には回復していた。
 ここからすぐに逃げないといけない。本能でそう思ったそうだ。
 檻と繋がっている鎖の拘束具を外すため、幾度となく身体を引っ張ると、繋がっていた鎖が切れ、その衝撃で檻の扉が開いた。

 よく見つからなかったねと聞くと、攻撃した男ではない者たちが、何度か様子を見に来ていたそうだ。
 ただ檻の扉が開いた際、外でも何かあったのか、強い揺れに襲われた。その隙に檻から逃げだし、全力で森の奥へ走ったとのことだ。
 逃亡途中に拾った刃物を木の幹の間に挟み、何度も首の拘束具にあてた。
 様子を見に来た男たちが「逃げても場所はわかる」と言っていたそうだ。
 まさか白虎が人語を理解しているとは、想像もつかないのだろう。
 ハクは、その言葉が首の拘束具を示しているのだと理解し、拘束具を外すため、必死に刃物を首へあてた。
 拘束具は丈夫で、なかなか壊れない。最後は、氷魔法で固め、刺したとのことだった。
 ただ必死すぎて、何の氷魔法を使ったかも覚えていないようだ。
 拘束具が外れたことを確認し、その場をすぐに後にした。
 この時には、意識が朦朧としていて、自身がどこを走っているかも分からない状況だった。
 もう走ることはできないと、身を潜めていた所で、俺に出会った。

 この話を聞いた俺は目に涙を浮かべ、ハクに抱きついた。
 状況はどうあれ、突然攻撃を受け、気を失ったのは同じだ。
 あの時の俺は、優秀な家族がそばにいて、すぐに処置をしてくれた。
 死の恐怖は残ったが、適切な対処でトラウマを残すこともなかった。
 だがハクはどうだ。
 傷ついた身体に鞭を打ち、知恵を絞り脱出。追跡の魔道具を外すため、自ら刃物を首に刺す……。
 助けてくれる人もなく、どれだけ怖い思いをしてきたのだろう。