『灯火』
火矢をイメージした火魔法は、ホワイトラビットの急所を射抜く。
これで二匹目だ。
白の森に入るとすぐにホワイトラビットと遭遇した。
ホワイトラビットは名の通り、見た目は白い兎だ。
ただし、大きさは五十センチメートル以上あり、特徴として額に角が一本生えている。
「あれがホワイトラビット」
「そうだよ。弱い魔物だけど、ああ見えて素早いからね」
「チビ、得物はなんだ。俺たちで逃げないよう周りを囲んでやる」
「あっ! その必要はありません。火魔法で仕留めます」
「おいおい、火魔法で仕留めるにも、近づくだろ。素早いから逃げるぞ」
「いえ、ここから魔法を撃ちます」
「ジーク、ここからだと遠すぎるのではないかい」
「大丈夫です」
二人の助言を無視し、俺は行動に移す。
ホワイトラビットから目を離さず、魔力循環を行う。
魔力制御で、威力・大きさ・持続を決め、矢尻に青い火がついた矢を放つイメージをして『灯火』を実行した。
青い火は、一直線に、ホワイトラビットの腹に命中し、一瞬にして火に包まれ、絶命する。
「失敗した」
急所である角の下を狙ったがだいぶずれた。また威力が弱すぎたせいで、射抜くつもりが、ホワイトラビットを焼いてしまった。
むーー。思った以上に緊張していたようだ。
次は、きれいに射抜いて見せる。同じ過ちは繰り返さない。
「失敗って、倒しているよ」
「緊張して狙いがズレました。魔法制御が上手くいきませんでした」
「おいおい、この距離で魔法放って一発で仕留めて、制御できてないって、なにが不満なんだ」
「んー……。言葉でお伝えするのは、難しいですね。次は失敗しないので、見ていてください」
俺の言葉に二人は顔を見合わせ、やれやれと言った感じで首を振る。
焼けたホワイトラビットをテオ兄さんが魔法鞄で回収し、森の奥へ足を進める。
二匹目はすぐに見つかり、俺の描いていた急所を射抜く仕留めかたができた。
「うん、80%ってところですね」
仕留めたホワイトラビットを見て、俺は満足する。
そこには、角の下に直径二センチメートルほどの穴が貫通して絶命している、ほぼ無傷のホワイトラビットがいた。
ただ穴の回りは、焼け焦げた跡があるため、そこは今後の課題だ。
「わぁーー。これはすごいね」
テオ兄さんが二匹目を回収しながら、感嘆の声を上げた。
ニコライは、魔法で射止めた部分の傷を丁寧に確認している。
「テオ兄さん、LvUPってどれぐらいでするんですか」
「んー。だいたい三、四匹で、LvUPするよ」
「だとすれば、あと二匹……。できれば複数同時に戦いたいのですが」
「複数同時にかい。今の戦闘を確認する限り問題ないとは思うけど、あと数匹単体で慣らしてからでもいいんじゃないかい」
「有難いお話ですが、Lv2に上がるまでのお付合いとの約束ですし、馬車の時間も考えるとギリギリかと。複数戦は経験しておきたいんです」
「そうだったね。ちょっと待って、探してみるよ。『報告』」
風魔法の『報告』は、声を運んだり、聞いたりでき、周囲にあるものの情報を大まかに取得することができる。
種類や個数などの特定は難しいが、大雑把に情報を得るには便利なのだ。
ちなみに、魔物や敵を探り出すのに適しているのは『索敵』で、上位魔法となる。
初級魔法なので、俺も使えるけれど、テオ兄さんの方が精度は高いので、ここは甘える。
「五百メートルほど先に団体がいるね」
「そこへ案内してください」
「了解。ニコライ行くよ」
「おぉー。なぁチビ、さっきの魔法は、火魔法の初級だな」
「はい。『灯火』です」
「そうか……。初級で、あの威力か……。現実だよな。ブツもあるしな……。いやいや、だけどなぁ……」
ニコライは、俺の答えを聞くと、ブツブツと思案しながら歩いて行く。その手には、先ほど仕留めたホワイトラビットがあった。
まぁ、言いたいことは、わかるけどね。
本来の『灯火』は、種火みたいなものである。それが魔物を瞬殺するだけの威力を放つなんて、この世界の常識ではありえないのだ。
明確なイメージと、魔力値が高ければ、容易にできるのだが、魔力値が高い = Lvが高いとなる。
魔力値が高いほとんどの人が、初級魔法ではなく、上級魔法を使う傾向がある。これは主に貴族の面子が、関係しているようだ。
確かに上級魔法は、攻撃力もズバ抜けてあり、魅力的ではある。
だけど、コストが高く、現実的ではないので、今はパスだ。
そっと視線をニコライに戻す。
テオ兄さんの横で、未だブツブツ言っているが、俺の魔力値が異常であることには、まだ気づいていないようだ。
冷静に考えれば、おかしいと思うのだが、俺の魔法が衝撃的すぎて、そちらに気がいっているようである。
このまま気づかなければ、それでよし。そう甘くはないと思うけどね……。