『落雷』
脳天に直撃した攻撃は、俺の全身を痙攣させ、意識が途切れた。
「「「ジーク!」」」
マリアンネは、ぐったりしているジークベルトに駆け寄り、全力で『癒し』を施す。
「お願い。ジークまで連れて行かないで『癒し』『癒し』『癒し』」
「ゲルト、なにをしたのかわかっているのか! 『聖水』」
「貴様、なぜこのようなことを! やはり貴様は!」
テオバルトは、誰よりも先に『落雷』の術者であるゲルトに詰め寄るが、マリアンネの回復魔法だけでは心もとないと判断し、ジークベルトへ水魔法の『聖水』を施すため、ゲルトから離れた。
同じくゲルトへ詰め寄ったアルベルトは、これ以上の攻撃を避けるため、ゲルトに威圧をかけ、押さえつける。
そこには家族の情はなく、最愛の弟を傷つけた犯罪者を捕縛することに集中する。
「姉上! 兄上! なぜわかってくれないのです。ジークベルトさえいなければ、母上は死なずにすんだのです」
「貴様、何を馬鹿なことを言っている!」
「ゲルト、正気なのか!」
部屋の様子がおかしいと気づいた侍女たちが慌てて部屋へ入室しようとするが、一人また一人と、扉の前で立ち止まり、唖然とする。
そこには、鬼の形相をしたアルベルトが、ゲルトを床へ押さえつけ、黒く焼け焦げた跡が点在しているソファにジークベルトが横たわっており、マリアンネとテオバルトが、必死に回復魔法を施していた。
何かあったことは明確だ。だが、アーベル家の優秀な侍女たちが一瞬躊躇する光景だった。
侍女長のアンナが素早く状況を理解し、侍女たちへ指示すると、各自が機敏な動きをみせる。
「旦那様へ至急連絡を! 『癒し』『聖水』の魔法が使える者は前へ!」
「「「「はい」」」」
「ジークベルト様! 『聖水』」
アンナは後悔した。
お子様たちだけにするのではなかった。
普段からジークベルトを見るゲルトの様子は尋常ではなかった。
ゲルトのリアへの執着心は、この屋敷では知れ渡っていたが、母親を愛する子供だった。
リアの関心が、ジークベルトへ高まったのは仕方がないことだ。末弟ができた戸惑いと子供の単なる嫉妬だと流していたのだ。
リア様に顔向けができない。
長年お側に仕え、何事にも公平なあのリア様が、はばかることなく愛情を注いだジークベルト様に、危害を加えるはずがないと、なぜ思ったのか、後悔しても悔やみきれない。
ジークベルト様、我が主の至宝。神よ、どうか再び奇跡を。