「魔物の数が異常だな。くそっ、取り逃がしたか。チビ、援護頼む」
「はい『疾風』。ハク、右側前方にも大量のオークがいるよ。テオ兄さん後方からオーガが迫っています」
「ガゥ!〈任せろ!〉」
「了解。ディアーナ様、援護を頼みます。エマはハクの取り逃がしを頼んだよ」
「「はい」」
ただ今大混戦中です。
十二階層の隠し部屋に到着目前で、トラップにかかったのだ。
魔物の反応が、ほぼなかったこともあって油断していた。
エマの「うわぁー」という声と共に、ガゴッと、お約束の音がした。
俺は一部始終を目撃していた。
エマが転ぶのを回避するため、壁に手をついたら、そこが罠の発動ポイントだった。
本当にエマは、お約束は外さないよね。
ガタンッと、音がして足もとが揺れた直後、そのまま床ごと急激に下がっていく。
重力を感じず、フワッと浮く感覚に「うっ」と声が出てしまう。
俺は、絶叫系が超苦手です。
ディアーナたちも「きゃあー」と絶叫している。
大がかりな仕掛けに、これちゃんと止まるよねと危惧していると、徐々に減速していき、ガダンッと停止した。
「皆、大丈夫かい」
「はい。大丈夫です。エマ、気をたしかにっ」
「ひっ姫しゃまー。ヒックッ、足がガクガクして、うっ、動きませぇん」
テオ兄さんの声掛けに、ディアが気丈に返事をするが、ディアと抱き合っていたエマは、プチパニックを起こし、立ち上がることができず、その場に座り込む。
スラはニコライの肩から落ち、床にへばりついたようで、床と平面に伸びていた。
あれは大丈夫そうだ。
ハクは床が落ちた瞬間、俺に駆け寄り守ろうとしてくれたが、今まで経験したことがない浮遊感に、すぐ耳を下げて恐怖した。
その姿に「うっ」と、情けない声を出しながらも、ハクを抱きしめた。
いまだハクは俺の腕の中でブルブル震えている。
乗り物酔いしたのかもしれない。
静かに『癒し』と精神を安定する魔法をかけると、ハクが腕の中から顔を出し「ガゥ〈こわかった〉 」と鳴く。
よしよしと、ハクの体をなで安心させる。
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ご主人様、いますぐ地図を確認ください。
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ヘルプ機能からの警告を受け、『地図』を慌てて起動する。
『地図』の迷宮階層の表示がおかしい。
マイナス十階層ってなんだ。
「テオ兄さん、階層表示がおかしいです。マイナス十階層との表示が……。えっ!? 前方から大量のオークの反応あり。数は三十です」
「マイナス十階層? 三十匹!? ニコライ頼む」
「おぅ! 行くぞ、スラ」
「ピッ〈がんばる〉」
床に伸びていたスラの体が正常な状態に戻り、ニコライの肩に飛び乗る。
それを確認したニコライが、オークのもとへ向かっていく。
その間にテオ兄さんは、ディアーナとエマに『聖水』をかけ、精神を安定させている。
突如、地図の左側にゴブリン三十、右側にスライム五十との表示が出る。
これはどういうことだ?
考えている暇はない。
「左側からゴブリンです。数三十。右側からスライムの大群。数五十。スライムは、僕が魔法でやります」
「了解。ディアーナ様、エマ、ゴブリンを狩るよ。ハクは、ニコライに加戦して」
「「はい」」
「ガウ〈わかった〉」
それぞれが、戦闘態勢に入る。
俺は『倍速』でスライムの大群に近づき『熱風』で瞬殺する。
スライムが青から赤に変わり、次々とドロップ品の薬草に代わる。
薬草にも種類があり、スライムの薬草は、HP回復薬のもとになる。
回収している先から新たな魔物が出現する。
光の粒が集まりオーク二十匹となった。
腰にある黒い剣を抜き、オークの大群に切り込む。
『倍速』で動きを速め、一撃々確実に急所を狙い仕留めていく。
二十個のオークの肉がそこにはできていた。
スラが喜ぶなと『収納』に放り込み、テオ兄さんたちの戦闘に加戦するため、もとの場所へ急ぐ。
この階層はおかしい。
魔物の出現を目の当たりにしたが、復活するにも周期があるのだ。
この数は尋常ではないし、俺たちが階層に着いた瞬間から、意図して魔物が出現している。
言った先から前方に光の集合体を確認すると、ゴブリンが十匹現れる。
うっとうしい。
魔力温存のため、黒い剣でゴブリンをなぎ倒す。
剣スキルを取得してから、剣筋があきらかに異なり、低ランクの魔物なら瞬殺で仕留められる。
スキルの有無は、雲泥の差であると、実戦が語っている。
「次から次へと、湧いてくる。くっそー。きりがねぇー」
「ピッ〈危ない〉」
ニコライの隙をオークが狙うが、スラがそれをカバーする。ニコライの集中力が落ちている。
魔物と戦闘を初めて早一時間、いくら低ランクの魔物であっても、数が増えれば脅威だ。
ニコライとテオ兄さんの疲労も激しい。ディアーナやエマは、そろそろ限界だ。
これは地味にやばいぞ。
打開策を考えなければ、全滅する可能性もある。
ん? なんだこれ? セーフティポイント?
地図上に突如、緑のマークが現れた。
すかさずヘルプ機能から説明が入る。
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ご主人様、すぐにその場所に移動してください。
魔物との戦闘をいったん離脱できます。休憩場所です。
セーフティポイントは、人がいない状態が一定時間続くと消えます。
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おぉー。ここで天の助け。
消える前に移動だ。
「みんな、僕についてきて、魔物との戦闘をいったん離脱できる場所が現れました。早くしないとその場所が消えます」
「ジーク先行して、僕がうしろの魔物を引きつけるよ」
「はい」と、テオ兄さんに返事をして、戦闘中のハクを呼び、ディアーナたちの護衛を頼みつつ、セーフティポイントへ急ぐ。
前方にも魔物の大群がいるが、黒い剣を振り回しなぎ倒す。ドロップ品は回収不要だ。
ハクも襲ってくる魔物を前足で切り裂いている。ハクには念話で、魔法を温存するようにと伝えてある。
この先なにがあるかわからないからね。
地面から緑色の光を発光している場所が見えてくる。
あれがセーフティポイント。
なんとか消える前に到着できたと、安堵のため息をつきながら、緑の光に突っ込む。
ディアーナたちもためらうことなく、俺の後に続く。