「ガルゥー!〈やったぞー!〉」

 勝利の雄叫びをあげているハクの横で、ドロップ品を素早く回収している俺。
 ただいまコアン下級ダンジョンで、ハクのレベル上げの真っ最中である。

「ハク様、見事な討伐でした」
「あの動きは私には無理です。姫様どうしましょう」

 ディアーナが拍手をしてハクの討伐を褒める横で、青白い顔をしたエマが両手を頬にあて叫ぶ。
 エマ、大丈夫だ。君に戦闘能力は望んでいない。最低限の身を守る技術があればいいのだ。

「ハク、魔物を弱らせてくれるかい。エマが一撃で倒せるぐらいに弱らせてほしいんだけど」
「ガウ!〈わかった!〉」
「ありがとう。ハク」

 俺の意図を正確に読み取ったハクは、尻尾を大きく振り同意してくれた。
 俺がハクの頭をなでていると、エマが遠慮がちに恐縮して言う。

「あっあの、ジークベルト様、それではハク様に申し訳ないというか。私でも、なんとかひとりで倒せるようにがんばりますので」
「死ぬよ。エマ、君のステータスは説明したよね。甘く見ていたら死ぬよ。ここは下級ダンジョンだけど推奨は冒険者ランクC。君ひとりで格上の魔物と戦闘できるわけない。ここはハクに任せるんだ」

 俺がいつになく厳しい態度を示したことで、エマの表情が引き締まった。

「はっはい。すみません。ハク様お願いします」
「ガウッ!〈まかせて!〉」

 ハクがLv6に到達したため、本来の目的であるエマのレベル上げをする。
 エマのステータスは、尋常じゃないほど低かった。早急に対応する必要があるため、パーティーを組むための条件などと悠長に述べている場合では なかったのだ。
 横着してエマのステータスを確認していなかった俺にも問題はある。もう後悔はしたくない。


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 エマ・グレンジャー 女 12才
 種族:人間(エルフクォーター)
 職業:侍女見習い

 Lv:1
 HP:8/8
 MP:1/1
 魔力:2
 攻撃:3
 防御:6
 敏捷:1
 運:7

 技能スキル:料理Lv3、家事Lv2、作法Lv1

 加護:精霊の祝福(封印中)
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 このステータスでよくダンジョン踏破についてきたと思う。
 俺の鑑定眼の情報でエルフのクォーターであることもわかった。本人は認識がないようだ。
 非常に残念なことにエマは、魔力がない。精霊の祝福があるにもかかわらず、精霊と魔契約できるだけの魔力がない残念なエルフなのだ。

 二年前にディアーナに拾われたエマだが、それまでは山奥に母親とふたりでひっそりと住んでいた。母親が亡くなり、たまたま訪れた王都でディアーナと会い、そのまま侍女見習いとして仕え始めたそうだ。
 いや、本当に今までよく生きてこられたと感心するステータスだ。


 ***


 エマのステータスに衝撃を受けた俺は、すぐにエマのレベルを効率よく上げるため、コアンの下級ダンジョンを選択した。
 子供じゃないのだから、白の森でホワイトラビットを追うような、のんきな狩りはできない。
 それにハクやディアーナ、そして俺の戦闘経験を増やす必要もある。経験がものをいうことを踏破で実感した。
 しかも、叔父の伯爵の叙爵後、アーベル家は多忙を極めていた。
 そのおかげで俺たち子供たちへの監視が甘くなっていたことを俺は見逃さなかった。
 絶好の機会に、ディアーナたちを引き連れ、普段通り修練場に向かうと迷わず『移動魔法』でコアンの町へ移動した。
 転移した瞬間、ディアーナは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻し「『移動魔法』やはり使えたのですね」と冷静にひとりで納得していた。対するエマは「えっ、えーー? 修練場にいたはずですが、ここはどこです?」と、かなりのパニックに陥っていた。
 そんなふたりをよそに、俺はすぐ指示をして歩きだした。

「説明は後で、すぐにダンジョンに入るよ」
「はい」
「ガウ!〈わかった!〉」
「あっ、ジークベルト様、姫様、ハク様、置いていかないでくださいっ」

 事前に認識阻害の魔法をかけていたので、周囲から不審な目で見られることもなく階層スポットに入る。
 そこから十七階層の洞窟に転移した。
『地図』スキルを発動させる。近くに人がいないことを確認し、半径一キロ以内に接近した場合、アラートが鳴るよう設定する。

「ガルゥ!〈早く狩りに行こう!〉」
「ハク、待って。先にディアたちに説明しないといけないから」
「ガウ!〈わかった!〉」

 ダンジョンに興奮して急かすハクを止める。ハクはご機嫌な様子で俺のそばに寄り、尻尾を俺の足に絡ませた。どうやら催促しているようだ。
 そんなハクの頭をなでてから、ディアーナとエマの態度に注視する。
 ディアーナは、洞窟内を注意深く見回し「前回の場所とは違うようですね」と、周りの状況を把握していた。エマは、その横で唖然と突っ立っていた。
 これは性格の差かもしれないが、致命傷となる。この部分も改善しなければならない。
 あと二ヶ月、いや抜け出せる機会はそうそうない。そう考えると時間が足りない。
 ネガティブに考えてはダメだ。今できるところまでやろう。最善を尽くすんだと気合を入れる。

「僕が出した条件だけど、反故にしてごめんね」
「いいえ、なにか事情があるのですね」

 俺が話を切り出すと、ディアーナが姿勢を正して反応する。エマも緊張した面持ちで俺を見る。

「近々エスタニア王国で武道大会があるよね」
「はい」
「それにディアは同行するね。名目は僕の婚約者となったことの報告だ」
「はい」
「先日の反乱の根が深いのは、わかるね」
「はい」
「ディアは表向き、王位継承権は第四位だ。父上は『降嫁すると決まった時点で、王女の王位継承権は消滅する』と言っていた。『降嫁すると決まった時点』とは、いつの段階を示すのだろう。婚約をした時点? 結婚をした時点? 多くの人は結婚をした時点であると考える」
「それは……」

 ディアーナが目を見開き、言葉を詰まらせる。
 それを目視した俺は、確信めいたことを告げる。

「たしかにアーベル家は他国であり、婚約した時点で婚約破棄される可能性はないに等しい。だけど王位継承権が消滅したと考えない人もいるんだ」

 一瞬でディアーナの顔色が変わった。俺が言いたいことを悟ったようだ。

「また狙われるのでしょうか?」
「わからない。だけど用心に越したことはない」
「はい。では今回の同行は、私共のレベル上げでしょうか」
「うん。ディアもレベル上げが必要だけど、早急に対応しないといけないのは、エマだよ」

 突然話を振られたエマは「わっ私ですか!?」と、狼狽する。そんなエマに、俺は真剣な表情で尋ねる。

「エマ、君のステータスは絶望的に低い。というか、いまだLv1だよね」
「Lv1ですが、絶望的なんて大袈裟に言いすぎですよ」
「エマ、あなたLv1なの?」
「はい。姫様、なにかおかしいでしょうか?」

 ディアーナの態度から、なにかを察したエマがその様子をうかがいながら尋ねるが、彼女がそれに答えることはなかった。
 エマの肯定に絶句していたのだ。
 俺はそれに気づくと、ディアーナの代わりにエマの質問に答えた。

「エマの年齢でLv1なんて、ほぼいないんだよ。最低でもLv5はある」
「そうなんですか? 今まで不便を感じたことはありませんが?」
「そこが不思議なんだよね。ステータス値はあくまで数値化されているだけで、基礎体力は比例してないのかもしれない。だけど、エマの数値だけを考えれば、あしで足手まといになる。エスタニア王国に行くまでに、最低でもLv10にするんだ。これは、ハク、ディアもだ」
「「はい」」
「ガウ〈わかった〉」

 全員が神妙にうなずく。事の大きさをわかっているようだ。
 安心した俺は、各自のレベルとステータスを書いた紙を『収納』から出して各々に見せた。

「現在の各自のレベルはこれだよ」


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 ジークベルト・フォン・アーベル
 Lv:12
 HP:230/230
 MP:1310/1310
 魔力:1310
 攻撃:230
 防御:230
 敏捷:230
 運:420
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 ハク
 Lv:6
 HP:275/275
 MP:235/235
 魔力:255
 攻撃:215
 防御:185
 俊敏:290
 運:125
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 ディアーナ・フォン・エスタニア
 Lv:5
 HP:34/34
 MP:39/39
 魔力:42
 攻撃:28
 防御:30
 敏捷:26
 運:10
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 エマ・グレンジャー
 Lv:1
 HP:8/8
 MP:1/1
 魔力:2
 攻撃:3
 防御:6
 敏捷:1
 運:7
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 ステータスを見たエマが「ほぉわぁー」と、歓声をあげる。

「ジークベルト様やハク様のステータスは、すごく高いですね。お強いのも納得です」
「エマ、あなたのステータス……っ」

 エマの横で小刻みに震えながら言葉をつなぐディアーナ。

「今までどうしていたの。わたくし、無理をさせていたのかしら? 主人として失格だわ!」
「姫様? 無理などしてませんよ。主人失格なんて、姫様は最高のご主人様ですよ。あっ今はジークベルト様もですけどね」

 ディアーナの嘆きに、その意味を理解していないエマが慌てて否定するも、彼女にその声は届いていない。
 ディアーナのあからさまな動揺は、しかたがないことだ。
 エマの年齢から考えても、このステータスはありえないのだ。
 基礎体力がステータス値に比例していないとしてもこの数値では、悪病にかかり命を落とすこともあるはずだ。
 レベル上げは、戦闘経験値、魔物を倒すほかにも方法がある。一般の人が戦闘をすることは難しいが、日々生活をしている中で人は体力をつけ、行動する。それが蓄積され、成長と共に若干だがレベルが上がるのだ。
 エマにはその蓄積がない。原因は『精霊の祝福』だ。
 気になってヘルプ機能で調べた。


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 エルフクォーター……。
 まさか身近にいたとは、気づけず不覚。

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 ヘルプ機能? 何か言った?


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 いいえ、なんでもございません。失礼しました。
 エマ・グレンジャーが、なぜLv1なのか、原因は『精霊の祝福』です。
 精霊の祝福は、精霊と魔契約するのが大前提のものです。
 魔契約をすれば恩恵がもらえますが、しなければ弊害があります。

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 その弊害が、経験値が蓄積されないってことなのか。だけどエルフは、誕生時に精霊の祝福があるはずだ。
 だとすれば、魔契約するのに相当時間を要することになる。


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 エルフは種族特性で、初期ステータス値が人間より高いのです。
 特に魔力は、魔契約できるだけの値があります。
 以前にも申し上げましたが、たまに魔契約できないほど魔力がないエルフもいます。

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 あぁ、残念エルフね。
 といことは、エマの種族は人間だから、人の初期ステータスで魔契約できず、経験値の蓄積もできないってことだね。
 さんざんな結果だ。
 しかも、HPや防御以外の数値が極端に低すぎる。こればかりは個人の才能なので、どうしようもないが、歯がゆすぎる。
 ヘルプ機能、精霊の祝福の封印中は、なにか影響があるのか。


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 影響と申し上げていいのか、封印中のスキル・加護は、『鑑定』時に他者には見えません。
 封印は、先天性・後天性があり、エマ・グレンジャーの『精霊の祝福』が封印されたのは、後者です。
 母親が封印したようです。

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 俺にそれが見えるのは、転生特典でもらった特別な『鑑定眼』があるからだろう。
 母親が封印した経緯は、おそらくトラブルに巻き込ませないためだと予想がつく。
 しかし、エマ本人は精霊の祝福があることを知らない。知っていたなら、魔契約を望むだろう。
 なぜ母親が本人に教えなかったのか、疑問は残る。もしかしたら、エマの魔力値の低さに絶望したのかもしれない。今のエマの魔力値では、魔契約できる精霊がいないのだ。
 精霊との魔契約は、ランクが低い精霊でも魔力値が最低30はいる。
 精霊のランクが上がれば、必要な魔力値も当然上がる。
 ただし例外がある。『精霊の祝福』を与えた精霊はどのランクであろうと、魔力値が30で魔契約ができる。
 エマの場合、魔力値の初期値が2のため、レベルアップ毎に増える値は1~2である。最低でもLv15、最高でLv29で魔契約に望めるのだ。
 できれば精霊の祝福を与えた精霊と魔契約させてあげたいが、いつどこで精霊の祝福を受けたのか不明だ。


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『精霊村』で情報を確認することができます。

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 うん。ヘルプ機能、ごめん。
 まだ『精霊の森』には行かないよ。
 そもそも今のエマでは、魔契約できないしね。


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 くっ…。またしても機会ではなかった。

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