「俺たちじゃ役に立たないって?」

「さぁな。……俺にだって分かんねぇよ」

飯塚さんの暴走に気づかなかった。

ずっと一緒にいたのに、全くそんな素振りすら感じなかった。

いつもにこやかに穏やかな微笑みをたたえていたあの人は、今はもういない。

竹内の横顔も暗く沈んでいる。

俺たちは、#本当に__・__#知らされていなかったんだ。

隊長はそんな俺たちに、「帰れ」という。

バス停へ向かう俺たちの足取りは重くて、何の言葉も交わせなかった。

朝の空はどこまでも高くて、始まったばかりの一日を手放しで祝福している。

途中の自販機で、新商品のチョコラテを見かけた。

一度自販機を軽く蹴る。

その音の違いで、本物の自販機かどうかを見分けられるようになっていた。

二つ買ったその片方を、竹内に差し出す。

「嫌味か。コレ、前に俺が勝手に飲んだって、お前が怒ったやつだろ」

「一緒に飲みたかったんだよ」

天命の混乱は続いている。

次々と侵入と攻撃を繰り返すハッカー集団。

警察や消防、自衛隊管理システムや官庁へのハッキングと乗っ取り。

天気予報や時刻表を書き換えるいたずら。

それら全てを未然に防ぎ、また修復し元に戻す。

いつもの業務が3割増しで、CPUに余裕はあっても、メモリは80%にまで達していた。

これは天命の能力として、危機的な状況だ。

「いいよなぁ、空って。いっつも青くって……」

そんなどうでもいいことをつぶやいて、竹内に声をかけようとして、やめた。

端末の画面から一切目を離すことなく進むこの横顔に、何を言っても無意味なような気がする。

青と白だけの世界に、シミのような黒い点が舞っている。

俺たちを見下ろしてでもいるのだろうか。

そのシミは旋回しながら徐々に降下し、やがて一羽のカラスとなった。

緊張が走る。

竹内も気づいている。