「天命の使い方か。こればっかりは少しずつ慣れていくより、仕方がないね」

飯塚さんは静かに微笑んだ。

「いいことを教えてあげよう」

ディスプレイに、先日の行動記録が表示される。

「地下鉄の駅前から、ここまでの帰還競争をしただろう。どうして他のみんなの方が早かったのか、その謎は解いてみたかい?」

俺の行動履歴は、電車の路線をたどっている。

竹内のは普通に一般道を走っていた。

いづみと飯塚さんのは……。

「僕といづみのに関しては、後回しにしよう。まずは竹内くんのからだね」

その日の竹内の行動記録がクローズアップされる。

画面には移動速度まで記録されていた。

最初は徒歩。

その後は車に乗り換えているけど、それにしても速い。

「この移動速度の速さは、どうしてだと思う?」

夜8時の時間帯だ。

都内の幹線道路はどこも混んでいるはずなのに、スピードが全く落ちていない。

「普通なら、車で行くより電車で移動した方が速い。そう思うのはどうして?」

「渋滞があるから」

「そう。だけど、竹内くんのはそうはなっていない」

飯塚さんの指先は、軽やかにステップする。

「交通局のシステムを操作しているからだよ。信号機の点灯時間を調整し、渋滞を解消させ自分の進路を全て青に変化させる」

平均移動速度56.7km/hというのは、一般道ではあり得ない。

「幹線道路こそ使いやすい技だ。そしてこういった大きな道を使う方が、便利で速い」

交通量の変化を時系列で見ると、確かに側道は竹内のために渋滞させられていた。

飯塚さんはふっと微笑む。

「IT技術全般に関しては、竹内は部隊でもトップクラスだよ。プログラミングの早さとコードの正確さは、隊長のお墨付きだ」

その言葉に、彼は頬を赤らめる。

そんな姿を、俺は初めて目にした。

「まずはここからだね。車で移動することは多いから、この簡易設定を自分で組むといい。プログラムを作るのは、得意だろ?」

「はい!」

飯塚さんは、そうでなくても穏やかな顔に、さらに柔らかすぎる表情を浮かべて微笑む。

「飯塚さんの二つ名はな、『電子の魔術師』だ。ある意味この天命を使いこなしているのは、この世界で隊長と飯塚さんだけかもしれないな」

竹内も両腕を組み、うんうんと何度もうなずいている。

本日の講義はこれでおしまい。

飯塚さんが電子の魔術師なら、俺はその魔術師の弟子ということだ。

竹内が一番弟子なのかもしれないけど、負けるわけにはいかない。

自作の端末と天命とはすでにリンクさせてある。

俺だってポケットサイズの端末で、この天命を使いこなしてみせる。