「……まだなにかあるの?」

「いや、依頼人にフィードバックもらうのよいつも。今回の依頼はどうでしたかって」

「120点よ、ありがとう」

 今回、ことの発端は北カナメが俺らに依頼してきたこと……

 のように見えてその実態は、「依頼するように仕向けた」っていうのが正しくて、本当の依頼人っていうのがこの高砂恵茉のほうだった。


『カナメくんが私との別れを取り持ってくれって依頼するようにしたいの』


 彼女の依頼はそれだった。だから別れたいのは彼女もいっしょで、ただ自分かふったり単に別れを取り持たせるとあとで何が起きるかわからないから「ふられたことにしたかった」わけだ。

 だからどうしてそんなまどろっこしいことするのかも、勝手に調べさせてもらった。

「落合絵里奈って腹違いの妹なんだね」

 高砂恵茉の肩がピクッと動く。
 その顔はどうしてそれを、と言いたげでただでさえ白い顔が血の気を失って真っ白だった。

「大変だよなあ、優等生ってのは。父親が性犯罪者だってばれたら風評被害でいままで積み上げたもんおじゃんになるもんな」

「どこで……それを……」

「本腰を入れて調べればわかることだ、雅紀ならな」

 今回、じつは彼女に依頼されてから今日までは大体1か月くらい時間があった。だからその間になんで別れたいのか、もすこーしだけ調べさせてもらっただけだ。

 なんとなく合わない、としか彼女は言わなかったけど悪者になりたくないだけでそんなにまどろっこしいことをするもんかと不思議だった。

 そこに出てくるのが落合絵里奈だ。
 事実は小説より奇なりとかよく言ったもんだよな。

 別れたいと思った、というより「目黒雅紀を使わせて別れる必要があった」というのが正解だ。
 彼女は俺の趣味のことをなんとなくわかっていたらしい。

 北カナメがちょっかいをかけている女がいるくらいなら自分でふっていただろうけど、相手が落合絵里奈ではそうはいかない。

 もし自分から別れを告げてなにも知らないであの二人が付き合ったら?
 被害者の娘である落合絵里奈がどこまで知っているか、を高砂恵茉は知らなかった。高砂恵茉は落合絵里奈を知っていたが、関わるのを避けていた。

 でも彼女は、なにか知っていたら、もし別れてあの二人が親しくなって北カナメがなんらかの事実を知ったら、それによって自分の父親のことがばれてしまったら……。

 ことがことだけに楽観視できなかったらしい。真面目っていうのは時に弱みだ。かわいそうにな。