◆
心から、なんてあの男が言うのでどんなもんかと落合絵里奈を観察してみたがとりあえず万人にウケがいいというのはわかった。
北カナメの言う溌剌さ、爛漫さ、そういったものは特別に見せる顔とかではなく彼女の素の顔であるらしい。
スポーツをやっている女子であれば誰でもあんなものだと思うが、北カナメは落合絵里奈のなにをそんなに特別視したのだろうか。
高砂恵茉について俺はほとんど何も知らないがそれでも同学年の中でなんとなく特別扱いされる存在だというのはわかる。
男女問わず高砂恵茉に好意的だがあれはいわばカリスマ性みたいなものがそうさせているのだ。単に根明らしい落合とはそもそもの土俵が違うでは無いか。
雅紀の言ったことを思い出す。
クラスでの顔と部活での顔。1日通して観察した結果「差異はなし」だった。なんだこのつまらん結果は。
「不服そうだな」
「お前が言ったことだからもう少し面白い結果を期待していた」
「別に、落合絵里奈はアレでいいんだよ」
「どういうことだ」
「俺らに来た依頼は別れさせてほしい、なんだよ。それ以上でも以下でもないの」
長い付き合いだがいまだにこいつの言い方はまどろっこしくてよくわからない。
俺は雅紀ほど頭がよくないのでこいつのやろうとしてることの全貌を知るのはことが終わろうとしているときだったりすることもざらにある。
「そちらはどうだった」
「なんも変わりなし。高砂恵茉は高砂恵茉だよ」
経験則だが、たとえどんなに仲の良いカップルであってもこいつは今週中に別れさせるところまで持っていくだろう。
気になることと言えばあくどい顔をしているところだろうか。
こういう顔のときの雅紀はなにかよくないことを考えている。
まあ「円満的かつ自分が納得する終わり方」みたいな指定はされていないのでそれは言わない依頼人が悪い。
雅紀に依頼するやつらは目黒雅紀という男をあまりに知らなすぎる。
こいつがやっているのは善意のボランティアとかではないんだが、どうして「何でも屋」という好意的な通称なのかもよくわからない。
「最近ちょーっとつまんねえかなって思ってたけど、今回はよさそうだったな。ストーカー君より楽しそうだぜ」
「趣味が充実して何よりだ」
「俺に付き合ってんだから圭介だって同じだろ~?」
「当然だ」
善意、とかあるいは偽善とかそんな可愛いものではない。
雅紀の趣味は、使うかどうかは別として、他人の弱みを握ることとか脅迫ネタを集めることなのだ。