「王子様とお姫様のお別れに暗躍かあ、圭介、俺そろそろ刺されそう?」
「むしろ立役者になるチャンスだろう。で、なぜ彼女と別れたいんだ」
「……初めて心から好きになった子がいるんだ、彼女じゃなくて」
圭介と顔を見合わせる。心から? あんなに仲良さそうにしてたくせに、高砂恵茉のことは心から好きってわけではなかったのか。
まあ俺たちは高校生だし珍しい話でもないのかな……、と思いつつしらけた気持ちになってしまった。なんだよ心からって。
「相手は?」
「一年の、落合 絵里奈だよ。陸上部の、昨日の集会で表彰されてた子」
半分以上寝ていたがぼんやりと思い出す。たしかに陸上部が県大会でどうとか言っていた気がする。5人いたがたしかに1人女子がいたなと思い出す。美術部の部長と生徒会長を兼任しているザ・しとやか文系お嬢様タイプの高砂恵茉とは正反対の感じだった。
「あの奔放さも、明るさも、僕は今までしらなかった。女の子ってみんなこう、したたかだからね」
「あんたのレベルだと苦労も多そうだ」
「わかる~」
王子によって来る女の子の中にああいう活発系はあまりいないだろうな、といままでの〈依頼人〉たちのことを考える。
化粧に、スカートの長さに、SNSのトレンドに目がないような女子が圧倒的に多かったのを思い出した。だからこそ直球勝負では高砂恵茉には勝てないと思っていたんだろう。
「できるかどうか、はともかくやれることはやってみますけど俺らは支払いがない代わりに成功も保証しない。いいですね?」
「うん、うまくいけばラッキーくらいに思うようにするよ」
それでも依頼が来るのは、失敗したためしがないから……なんだけどそれを教えてやる理由はないし、「良い噂」が出回ってるからこうして依頼が来るんだ。趣味が充実して大変結構。
「明日からそれぞれ情報を集めよう。俺は高砂恵茉、圭介は落合絵里奈の担当な」
「わかった」
「ありがとう2人とも、頼むね」
そういうと王子は昇降口のほうへ歩いていった。いや協力する姿勢とかないのかよ。
高砂恵茉のことは、基本情報ならたぶん2年生は大体知ってるだろう。成績優秀、美術では賞を総なめ、スポーツはぼちぼちだが悪くない。言葉遣いや振る舞いもいいし、なにより顔が可愛い。
あいにく個人的にはあまり話したことがないが目立つわりに特段悪い話を聞かないのは彼女が模範生だからだろう。
「俺はなにを調べればいいんだ」
「学年やクラスでの顔、部活での顔、王子と知り合ったであろう経緯、それから交友関係あたりかな」
「ふむ……」
「そーんな険しい顔すんなよ、俺の予感じゃ別れさせるのはそんなに難しくない」
「……含みのある言い方だな」
「問題はそれより後だろうな、引き締めていこうぜ」