「おまえそろそろ恨みの一つも買うんじゃないのか」

「俺を恨めるなんて幸せじゃないか?」

「俺は真剣に言ってるんだが」

 俺だって真剣に言っている。ストーカーくんは俺らのことを「何でも屋」とかいう品のない呼び方をしていたが、別になんでもかんでもしてるわけじゃないし、だれかれ構わず依頼なんか受けてない。

 部活みたいに公式に活動してるわけでもないからこれはどっちかというと趣味みたいなものだ。圭介だって自分の意志で俺に付き合ってる。

「俺が恨まれるなら圭介だってそうだろ」

「俺は追っかけたり捕まえたりはするがそこに誘導するのは雅紀だろう。そうなればあいつのせいで、と思われるのはお前のほうだ」

「たしかに。まあ恨まれたところで怖くないよ」

 恨まれようがなんだろうが、終わってしまったことは覆らない。それ自体が俺にとっての強いカードだ。悪事ってのは、高校生には弱みになることのほうが多い。

 それに相談事のほとんどは恋愛がらみだ。ストーカー被害もそうだけど、別れさせたいとかヨリを戻したいとか、告白する場を作ってほしいとかそんな感じ。

 それ以外の相談もなくないけど、無くしもの探したり勉強教えたり。「まずい恋愛もの」以外で恨みを買いそうなことは実はあまりない。逆に言うとそのまずいやつに爆弾が居たら相当やばくはある。

「あ、あの! 目黒くん!」

「ん?」

「3年の北 カナメだな。なにか用か、北カナメ」

「怖い怖い、威圧感出さない」

 青い上履きなので確かに三年生だ。彼なら俺でも知っている。なんでって俺に負けず劣らず美しい顔だからだ。
 俺は不本意ながら「残念なイケメン」と呼称されるが彼は文字通り「王子様」である。

 ただ王子様には彼女がいて、それを別れさせられないかという相談をされたのも1度や2度じゃない。もちろん断った。
 「お姫様」は俺たちと同級生、つまり2年生の女生徒だ。高砂(たかさご) 恵茉(えま)とかいった気がする。

「きみは神田くんだよね、よろしく。ちゃんと頼みがあるから声をかけたんだ」

「王子様からのご相談とは光栄ですね。それで?」

 王子様じゃないよ、と彼は笑った。
 育ちのよさそうな所作ゆえに王子に見えると言っていた子が居た気がするが、これなら納得だと思う。
 乗馬とかできるんじゃないだろうか。

「あ、依頼内容によっては断らせていただきますけどいいですか」

「うん、まあでも、断られるような内容ではないと思う、かな」

「へえ?」

「彼女……恵茉と僕を別れさせてほしいんだ」