「珍しく3人分のネタ集めはしなかったんだな」

「あー、落合絵里奈のこと? だってあれは俺笑えないからさ」

 北カナメを差し向けてきたのは高砂恵茉だったけど、そもそも一番最初に依頼してきたのはほかでもない落合絵里奈だ。

 北カナメに好かれていること、それを高砂恵茉が感づいていること、それによって悩んでいるだろうことも。

 ちなみに、「父親のことを知らない」っていうのも嘘だ。彼女は自分が乱暴の末の子供だってちゃんと知っている。


『それでも、お母さんは産んでくれたし、妹は可愛いし。恵茉さんと半分も血がつながってるのちょっとラッキーって思ってるんですよ』


「王子、なんだかんだアンテナは正確だよな」

「そうだな」

 最初は同じように落合絵里奈のなにかもゲットできればラッキーくらいに思ってた。実際彼女は俺たちの「趣味」の話を聞いたほうが先で、なんでも屋はそのあとに知ったらしい。

 つまり脅迫される前提で依頼を持ち込んできた珍しい客だったのだ。

「泣かせるよなぁ、好きな人のためにそこまでできちゃうんだぜ」

「落合絵里奈の秘密っていうのは同性愛者なことか」

「そうそう、でもそんなこと言ったら俺らが付き合ってるのも弱みになっちゃうじゃん」

 公言してないし聞かれてないから言うつもりもないが、別に隠してるわけじゃない。結構毎日一緒に居るから疑ってるやつくらいはいるだろう。

 だから、そういう純粋な高砂恵茉への好意を弱みとするにはちょっとな、ってんで今回落合絵里奈にことは見送った。一年生だからちょっと欲しかったけどまあそんなになにもかもうまくはいかないよな。

「王子と姫の裏の顔も見れたし、俺らのことうまく使えるだろうって思ってたみたいだけど。まあ、そうね、ザマーミロ、ってことで」

「あくどい割に後輩に優しいところがあるじゃないか」

「まーね、なんせ俺なんで」

 にやり、と圭介が笑う。
 
 そうそう、ボランティアじゃないんだからそんななんでもかんでも望み通りにオチはつかないもんなんだよな。

 最近よく見る悪役令嬢もの、あれいまいち納得いかねえけどあれは立場に意味があるんだよな。

 ほら、言うだろ。悪人正機ってさ。