「あいつが悪いんだ! あいつが俺のことをふったりするから!」

 状況が状況であれば最低でも人1人くらいは死んでいたのではないかと思しきセリフを吐いて彼はさらに喚く。

 しれっとその腕を掴み、押さえつけている俺の友人は「理解できない」という表情をありありと浮かべているが、逆恨みなんて下らないとかいう優しさではなく人間だと思っていないほうの「理解できない」だと思う。

「ふられた腹いせにストーカーしていいわけないだろ、綾瀬みゆきがどんだけ怖い思いしたかわかるか?」

「うるさいうるさいうるさい! お前に何が分かんだよ! 勉強出来て顔が良くて身長高くて家が金持ちの目黒 雅紀サマによぉ!?」

「さすがに照れるな」

「褒めてねぇんだよクソが!」

 目黒 雅紀。17歳。高校2年生。
 眉目秀麗才色兼備とは正に俺のためにある言葉なわけだが、そうだな、ナルシストだと言われていてもその全てが許されていると言えば俺のスペックの高さも伝わるだろうか。

 このストーカー男、を押さえつけているほうが俺の相棒であり幼なじみの神田 圭介という。
 ストーカーくんの名前は忘れた。とりあえず2組の綾瀬みゆきのストーカーだ。

「くっそ……なにが楽しくて何でも屋とかやってんだよお前ら……」

「なにもかもが面白いからに決まってんだろ、なぁ圭介」

「退屈はしない、そんなことより雅紀、この虫みたいな男はどうするんだ」

「虫!?」

 虫ときたもんだ。たしかに嫌なお客さんって意味ではゴキブリと大差ないだろう。特に依頼主(綾瀬みゆき)にとっては。

 もし、本当に虫だったとして、今回の依頼は害虫駆除に相当するわけだからそれなりの対処をしなくてはいけない。

 俺は目には目を歯には歯をってタイプなので優しくするのは……ちょっと難しそうだ。特に野郎相手では。

「さて、ストーカー野郎。ここにお前がやらかした諸々の証拠がある。盗撮に、無言電話? 私物の窃盗、あとをつけるのは当たり前、ポストに大量の写真とクロッチを切り取った下着? 趣味悪いね。ふーん、体操服にアレコレぶっかけて机に置いといたんだ? これさぁ、犯罪だって自覚あんの?」

 おえ、って顔をしながらそう言えばストーカーくんはサーッと顔を青くした。恋なんて病気みたいなもんだけど、なるほど自覚はなかったらしいな。

 とはいえ、じゃあ仕方ないですねとはならない。未成年とはいえ17歳の俺たちには最低限の分別くらいついていると大人は考えている。

「学校にいられなくするのは簡単なんだけどさ、俺らが証拠ばら撒くのと俺らの手足になんのどっちがいい?」

「て、手足?」

「簡単に言うと雅紀に良いように使われる、ということだな」

「そっ、それでいい! そうしてくれ! だからばら撒くのだけは!」

「話の早い奴好きだぜ、俺」

 圭介が手を離してもストーカーくんは呆然と俺らを見つめたまま立ち上がろうともしなかった。