久美が持ってきた仕事はどう見ても『これだけ』で終わるようなものではない。


これ1人でやろうとしたら1時間は残業だ。


そうなれば、フレンチは……。


顔面蒼白になったとき、久美はすでにその場にはいなかった。


逃げ脚だけは早いようだ。


澄恵は大きく息を吐き出して机の上の書類を見つめた。


いまからこれを全部データ化していかないといけないなんて……。


上司の今井に助けを求めて視線を送る。


すると今井は鞄を持ち、逃げるように出て行ってしまった。


澄恵は唖然として後ろ姿を見送る。


「あ~あ、あれは絶対約束してたね」


そう声をかけてきたのは美穂だ。


美穂は長い髪の毛を後ろでポニーテールにしていて、ボーイッシュな感じ。


後ろに立っているのは文音で、こちらは背が小さく、小動物みたいな可愛さを持っていた。