「ちょっとなにあれ」


怒りで震える声で言ったのは美穂だった。


美穂は持っていたペンをキツク握り締めて、今にもへし折ってしまいそうだ。


そんなことになっているとは知らず、久美は唇に指を当てたり、小首を傾げたりと、必死でかわいいアピールをしている。


全然似合ってないのに……。


安田の方はどうにか久美に仕事を覚えてもらおうと、真剣に説明を繰り返している。


けれど、当の久美は安田と会話ができれば、仕事なんてどうでもいいのだ。


覚える気なんて最初からない。


「私ぃ、よくわかんないからら、今度一緒にご飯で行こうよぉ。その時にゆっくり教えてほしいなぁ」


体をくねらせて言う久美。


「一体なにを教えてもらうつもりよ……」


震える声で言ったのは文音だった。


いつもの可愛い文音のキャラはどこかへ鳴りをひそめて、今は怒りで顔を真っ赤に染め、拳を握り締めている。