澄恵が自分の席へ戻ったとき、美穂と文音が近付いてきた。


「久美、昨日は残念だったね」


美穂の言葉に一瞬なんのことか理解できなかった。


しばらく考えて、そういえばフレンチを予約したんだったと思いだす。


「そうだね。でもまた機会はあるから」


澄恵は素直にそう言った。


フレンチに行けなかったおかげで、安田との貴重な時間を過ごすことができたのだ。


でも、それを2人に教える気はない。


「ほんっとぉについてなかったよねぇ、澄恵ちゃん」


文音が眉をハの字に曲げて言う。


はたして本心かどうかわからない。


本当に澄恵のことを考えているなら、3人でさっさと仕事を終わらせて、一緒にフレンチへ行けばよかったのだから。


文音への返事に困っていると、安田が書類を持って久美へ近づいて行った。