「これ、昨日の分です」


翌日、澄恵は入力し終えた書類を久美へ返した。


データ化されたものはすでにメールで提出している。


「あぁ、ありがとぉ」


久美は澄恵の方を見もせず、手鏡を取り出してリップを塗り直している。


「おばあさんの様子はどうなんですか?」


「え? おばあさん?」


久美が鏡から顔を上げて怪訝そうな表情を澄恵へ向ける。


「昨日早く帰ったのは、おばあさんが骨折したからじゃないんですか?」


その問いかけに久美はようやく思い出したように目を見開く。


「あ、あぁ。そうねぇ。たぶん大丈夫かなぁ?」


首をかしげて曖昧に返事をする。


きっと、これからも同じような手で仕事を押し付けるためだろう。


それがわかっていても、澄恵にはなにも言えない。


ただ「そうですか」と、冷たい返事をするのが精いっぱいだ。