高道と桜子の驚きの報告が終わったところで、玲夜は高道と仕事の話があり、別の部屋に移動するために立ち上がった。
「桜子」
「はい。なんでしょうか、玲夜様」
「高道と話をしている間、柚子の相談に乗ってやってくれ」
「柚子様になにかお悩みでも?」
「大学をどこにするか迷っているらしい。かくりよ学園のことを教えてやってくれ」
「そういうことでしたら、私にお任せください」
玲夜と高道が退出するのを見送って、部屋から離れていったのを確認する。
「かくりよ学園のどのようなことをお知りになりたいですか?」
桜子は早速かくりよ学園について話を始めたが、柚子にはそれより気になることがある。
柚子はズイッと桜子との距離を詰めた。
そして、内緒話をするように、こそっと囁く。
「桜子さん、もしかして高道さんのこと好きなんですか?」
「っあ……いえ、その……」
頬を染めて恥ずかしそうに手で顔を隠す桜子は、女の柚子から見てもかわいい。
あまりのかわいさに、婚約者となった高道が後ろから刺されないか心配になるほどだ。
おそらく高道は、多くの男たちの恨みと妬みを買った。この婚約の話が周知されたら、きっと男たちの涙の雨が降ることだろう。
「私、そんなに分かりやすかったでしょうか? 高道様に筒抜けだとしたら恥ずかしいです」
「高道さんが気付いているかは分かりませんけど、私はなんか桜子さんが高道さんを見ている目がかわいいというか嬉しそうだったので、なんとなくそうなのかなって」
「そうなのですか。やはり女性の勘は鋭いものですね」
「ってことはやっぱり!」
「ええ。実は昔から高道様のことをお慕いしていましたの。ですので、この度婚約が決まったことが本当に嬉しくて」
はにかむ桜子の表情は、まさに恋する乙女だ。柚子もなにやらテンションが上がってくる。
けれど、素朴な疑問が。
「知り合いのあやかしから、あやかしの女性は強さで伴侶にする相手を選ぶって聞いていたので、恋愛方面は淡泊なんだと思っていました」
これは、以前に東吉が言っていたことだ。
「決して間違いではございませんよ。女として、より強い男性を伴侶にと望む方は多いですね。けれど、あやかしとて感情を持った生き物。誰かを嫌いもすれば、恋することもございます」
それを聞いて、あやかしも人間と変わらないことになんだか安心した。
「でも、桜子さんは高道さんが好きなのに、玲夜の婚約者だったんですか? 反対とかしなかったんですか?」
「私は筆頭分家の娘。一族が決めたことは、よほどのことがない限り従います。しかもお相手は玲夜様です。玲夜様のことは尊敬しておりますので、伴侶として選ばれたことは光栄なことと思い否やはありませんでした。それに、お慕いする高道様の道ならぬ愛をそばで応援できるなら、これほど喜ばしいことはないと」
興奮するようにそこまで言ってから、頬に手を当て落ち込むように息を吐く。
「それがまさか勘違いでしたなんて。残念です」
そこは勘違いでよかったと喜ぶところだと思うのだが……。
どうやら玲夜と高道が恋人同士だという勘違いは理解したものの、そうでなかったことにがっかりしたことは変わりないようだ。
その勘違いの一番の被害者だった柚子はなんと言ったものか困る。
桜子に牽制までされてしまったのは、今となってはいい思い出だ。あれのおかげで、玲夜への恋心を自覚できたとも言えるのだから。
というか、好きなのに玲夜と高道を登場人物にした恋愛物語を漫画にして楽しんでいたようだが、あれは問題ないのか。本当に高道を恋愛相手として好きなのかと少し疑問に思ったりする。
普通、好きな人に恋人がいたらショックを受けそうなものだが、桜子は嬉々として応援していたように思うのだが、ここを掘り下げてしまうと危険な気がする。
「あー、恋バナはこの辺にして、かくりよ学園について聞いてもいいですか?」
柚子は強制的に話をすり替えた。
「あら、これが恋バナというものなのですね。同じ年頃の同性とこのように恋愛のお話をすることがなかったので初めての経験です。嬉しい」
「友達とそういう話になったりしないんですか?」
とは言いつつも、柚子とて恋愛について透子と話すようになったのは玲夜の花嫁になってからだ。記憶から消したい元カレはいたが、付き合っていた時でも透子とはあまりそのことに関しては話さなかった。
自分の話をしてしまうと、透子のことも聞くことになり、妹の花梨のことで花嫁に対していろいろと思うことがあったあの頃は、そんな余裕がなかったのだ。
今ではそんなわだかまりはなく、お互いに恋人について話せるようになったのは嬉しい変化だ。