迎えた週末。

 桜子が屋敷にやって来た。

 てっきり玲夜への報告かと思ったが、なぜか柚子も同席を求められる。
 自分も?と確認したがそれに間違いはないようで、玲夜の隣で桜子を迎えると、これまた不思議なことに桜子のすぐ隣に高道が座った。

 向かい合わせで座る四人。
 上座に座る玲夜と柚子に、桜子と高道が仰々しく頭を下げる。


「この度、桜子との婚約が決まりましたのでご報告に上がりました」


 その高道の言葉を玲夜は静かに聞いて頷いたが、柚子には寝耳に水。
 目を大きく見開き、思わず「えぇー!!」と叫んでしまった。


「嘘! ふたりが!? いつの間にそういう仲に!?」

「柚子、落ち着け」


 そう冷静に玲夜が言ってくるが、柚子はとても落ち着いてなどいられない。


「玲夜こそ、どうしてそんな冷静なの! 高道さんと桜子さんだよ!?」


 玲夜の元婚約者の桜子と玲夜の秘書の高道。ふたりは昔からの知り合いであることは聞いていたが、柚子には予想外の組み合わせだった。
 しかし玲夜はどこまでも冷静そのもので、驚きなど微塵もない。


「当然の成り行きだ。俺に柚子が見つかって、桜子との婚約が白紙になった時点でそうなるとは思っていた」

「どうして?」


 柚子にはどうしてそうなるのか分からない。
 そんな柚子に、玲夜は丁寧に説明した。
「桜子の鬼山家も高道の荒鬼家も分家の中では最も鬼龍院に近く、古くから当主を近くで支えてきた。だから信頼のあるこの二家には鬼龍院の者が嫁や婿に行くこともあり、そのせいか鬼の中でも霊力が強い。基本的にあやかしは霊力の強さの釣り合いを考えて婚姻が決められる。俺に釣り合う年齢と霊力を持つ女が桜子だったために婚約者に選ばれたが、それが白紙となったら次に桜子と釣り合う未婚の男は高道だ」

「そういうことなんだ……」


 しかし、あやかしの世界とは無縁の世界で生きてきた柚子には少し疑問が。


「ふたりはそれで納得しているんですか?」


 昔と違い政略結婚というものを時代後れと感じている現代っ子の柚子には、大きなお世話と思いつつふたりがそれでいいのか心配になった。


「ええ、私は納得していますよ」

「私もですわ」


 淡々と答えた高道と違い、わずかに頬を染めて高道をちらりと見上げて嬉しそうにはにかむ反応を見せた桜子に、柚子はおやっと思う。
 これはもしや……。
 柚子はひとり心の中で興奮し始めた。


「まあ、桜子のことは昔から知っていますし、いずれは玲夜様の奥方として仕えると思っていたのでまだ少し変な感じはしますが、玲夜様の婚約者に選ばれるほどの器量のよさは分かっていますからね。不満などありません」


 それを聞いて、桜子は恥ずかしそうに手を頬に添える。


「まあ、そんな。器量よしで素敵なお嫁さんをもらえて天にも昇りそうだなんて。高道様ったら」

「そこまでは言っていませんよ」


 うふふっと笑う桜子はどこか上機嫌で、うかれているように感じる。
 これはやはり……。
 柚子の女としての勘が働く。


「結婚はいつするんだ?」


 玲夜がそう問うと、高道は少し考えてから……。


「そうですね。恐らく桜子が大学を卒業してからになるでしょう。もしくは玲夜様と柚子様の婚姻を見届けた後か……。ですが、おふたりのお子様に仕える跡取りは早めに欲しいとも思いますので、両家の話し合いで早まる可能性もあります。桜子も学生結婚になったとしても問題ないと言っていますし」
「そうだな。のちの当主の側近となる者は早めに教育していてもらいたい。俺に高道がつくようになったのも子供の頃だしな。高道の子ならば俺の子供も安心して任せられる」

「玲夜様にそう言っていただけて光栄です」


 玲夜に褒められて、玲夜至上主義の高道の頬が緩んでいるが、柚子はそれどころではない。
 高道の話に出てきた玲夜との結婚……。
 花嫁としてここにいるのだから、いずれは結婚となるのは分かっていたはずなのに、いざ話に上ってくると急に実感が湧いてきて、恥ずかしいやらなんやら。
 しかも、子供の話とか早すぎると、頬が熱くなるのを感じる。
 ちらりと玲夜の顔を見ると柚子との結婚と聞いても顔色ひとつ変えていない。
 淡々と子供のことを話している玲夜と高道に、あやかしは淡泊というか現実的なのかもしれないと感じる。
 柚子は結婚やら子供やら色んな妄想が頭を駆け巡って大騒ぎになっているというのに。