***
浩介がいなくなったことで今回の騒動はすべて終わったかと思っていたが、まだ残っていることがあった。
それを知らせに来たのは、玲夜の父親の千夜だった。
「やあやあ、元気~? 我が愛しの息子玲夜君とそのお嫁さんの柚子ちゃん!」
「こ、こんにちは」
玲夜とふたり、まったりしていたところへの、突然の千夜の登場。
びっくりしつつ、挨拶は忘れない。
「どうしたんですか、父さん。この家に来るのは珍しいですね」
「津守のその後のことが決まったから、教えてあげようと思って来たんだよー」
「津守の?」
柚子の体が強張る。
もう大丈夫だと分かっていても条件反射してしまうのは仕方のないことだった。
柚子を後ろから腕の中に閉じこめるようにして座っていた玲夜が、柚子を抱きしめる手に力を入れる。
安全な場所だと分からせるようなその温もりに、自然と柚子の強張りも解けていく。
「柚子ちゃんは今回、本当に災難だったねぇ。玲夜君ってば女にも男にもモテるみたいだから困っちゃうよー。モテモテなのも大変だよねぇ」
あはははっと笑う千夜は相変わらずノリが軽い。
玲夜の眉間の皺が深くなっていっているが、千夜はおかまいなしだ。
「父さん。それで、津守はどうなったんですか?」
「今回のことは津守の当主に直談判して、ちゃんと抗議してきたよー」
柚子はこんなゆるゆるな千夜が抗議したところで、ちゃんと抗議として受け入れてくれるのかと内心心配していたが、こう見えても千夜は鬼の当主。見かけ通りの人物とは違うことを玲夜はよく分かっていた。
「今回のことは、玲夜君にしつこくしていた政治家が鬼龍院を脅すために持ちかけたのが始まりで、その話に乗った息子の独断だったみたい。政治家の方はちゃんとお仕置きしておいたから安心してねー」
可愛らしく言ったお仕置きという言葉に、柚子と玲夜が想像したのはまったく別のものだった。それは千夜がどういう人物かを知っているかいないかの違いだった。
「で、津守の息子の方は、破門ってことで話がついたよ」
「罰が軽くはありませんか?」
幸之助への処罰には不満の様子の玲夜。
「陰陽師として産まれ、陰陽師として育ち、陰陽師としてしか生きてこなかった津守の後継者だ。津守からの放逐はそれなりの罰になっていると思うよ。本人はかなりプライドが高いみたいだしぃ」
「ですが、鬼龍院の花嫁をさらった相手です」
「玲夜君の気持ちは分かるよ。だけど、今回の件は表沙汰にはしたくないんだよね。人間とあやかしの関係にひびを入れかねない出来事だからさ。ってことで、今回はこれで収めるよ」
それはお願いではなく、当主としての決定だった。
ならば、玲夜がそれ以上不満を口にするわけにはいかない。
「……分かりました」
不承不承ながら、玲夜は納得する。
「柚子ちゃんもそれでいいかい?」
「はい。私はなにが最善かまだ分からないので、決定に従います」
「うんうん、柚子ちゃんはいい子だねぇ」
よしよしと千夜に頭を撫でられるが、どう反応していいか分からず、曖昧に笑う。
すると、部屋にまろとみるくが慌ただしく入ってきた。
またみるくはまろを襲っているようだ。
本人は遊んで欲しいだけなのだろうが、活発なみるくと違い、まろはおっとりとしているのでついていけないのだ。
助けを求めるようにやって来たまろを抱っこする。すると、さすがにみるくも追いかけるのを止めた。
そんな、この家の日常となりつつある光景を目にした千夜が、みるくとまろをそれぞれじっと見つめる。
「……ふーん。そうかそうか」
なにがそうかなのか分からない柚子と違い、玲夜の眼差しが鋭くなる。
「どうですか?」
「うん。玲夜君の言っていた通りだね」
「そうですか、やっぱり」
柚子を置いて会話をしているふたりに、柚子は首を傾げる。
「ねえ、玲夜。やっぱりってなに?」
「この猫たちのことだ」
「まろとみるくがどうかしたの?」
その疑問に答えたのは千夜だ。
「うん。この子たちはただの猫じゃなくて、霊獣みたいなんだよねー」
そう言われても柚子には霊獣がなにか分からず首を傾げる。
「霊獣……? あやかしとは別物?」
「霊獣はあやかしに似ているが、もっと崇高な存在。あやかしよりも神に近い生き物だ」
その玲夜の説明に柚子は目を丸くする。
「えっ、神様? ただの猫じゃないの?」
「ああ。子鬼が陰陽師にやられただろう?」
「うん」
「本当なら俺のところまでは保たなかった。けれど、その猫たちが子鬼に霊力を分け与えていたから、なんとか形を維持できていたようだ」
「そうなの?」
驚いたようにじーっとまろを見ると「アオーン」とひと声鳴いた。
まるで柚子たちの会話を理解していて、そうだと返事をするように。
確かにおかしなことはあった。
津守の座敷牢で柚子が危機の時、助けに入ったまろとみるく。
二匹がどうやってあの場に現れたのか謎だったが、ただの猫ではなく霊獣という不思議な存在だというのならすべて納得できる。
「そっか。なんでもいいや。まろもみるくもかわいいから」
「ニャーン」
「アオーン」
かわいければすべて許されるのだ。
浩介がいなくなったことで今回の騒動はすべて終わったかと思っていたが、まだ残っていることがあった。
それを知らせに来たのは、玲夜の父親の千夜だった。
「やあやあ、元気~? 我が愛しの息子玲夜君とそのお嫁さんの柚子ちゃん!」
「こ、こんにちは」
玲夜とふたり、まったりしていたところへの、突然の千夜の登場。
びっくりしつつ、挨拶は忘れない。
「どうしたんですか、父さん。この家に来るのは珍しいですね」
「津守のその後のことが決まったから、教えてあげようと思って来たんだよー」
「津守の?」
柚子の体が強張る。
もう大丈夫だと分かっていても条件反射してしまうのは仕方のないことだった。
柚子を後ろから腕の中に閉じこめるようにして座っていた玲夜が、柚子を抱きしめる手に力を入れる。
安全な場所だと分からせるようなその温もりに、自然と柚子の強張りも解けていく。
「柚子ちゃんは今回、本当に災難だったねぇ。玲夜君ってば女にも男にもモテるみたいだから困っちゃうよー。モテモテなのも大変だよねぇ」
あはははっと笑う千夜は相変わらずノリが軽い。
玲夜の眉間の皺が深くなっていっているが、千夜はおかまいなしだ。
「父さん。それで、津守はどうなったんですか?」
「今回のことは津守の当主に直談判して、ちゃんと抗議してきたよー」
柚子はこんなゆるゆるな千夜が抗議したところで、ちゃんと抗議として受け入れてくれるのかと内心心配していたが、こう見えても千夜は鬼の当主。見かけ通りの人物とは違うことを玲夜はよく分かっていた。
「今回のことは、玲夜君にしつこくしていた政治家が鬼龍院を脅すために持ちかけたのが始まりで、その話に乗った息子の独断だったみたい。政治家の方はちゃんとお仕置きしておいたから安心してねー」
可愛らしく言ったお仕置きという言葉に、柚子と玲夜が想像したのはまったく別のものだった。それは千夜がどういう人物かを知っているかいないかの違いだった。
「で、津守の息子の方は、破門ってことで話がついたよ」
「罰が軽くはありませんか?」
幸之助への処罰には不満の様子の玲夜。
「陰陽師として産まれ、陰陽師として育ち、陰陽師としてしか生きてこなかった津守の後継者だ。津守からの放逐はそれなりの罰になっていると思うよ。本人はかなりプライドが高いみたいだしぃ」
「ですが、鬼龍院の花嫁をさらった相手です」
「玲夜君の気持ちは分かるよ。だけど、今回の件は表沙汰にはしたくないんだよね。人間とあやかしの関係にひびを入れかねない出来事だからさ。ってことで、今回はこれで収めるよ」
それはお願いではなく、当主としての決定だった。
ならば、玲夜がそれ以上不満を口にするわけにはいかない。
「……分かりました」
不承不承ながら、玲夜は納得する。
「柚子ちゃんもそれでいいかい?」
「はい。私はなにが最善かまだ分からないので、決定に従います」
「うんうん、柚子ちゃんはいい子だねぇ」
よしよしと千夜に頭を撫でられるが、どう反応していいか分からず、曖昧に笑う。
すると、部屋にまろとみるくが慌ただしく入ってきた。
またみるくはまろを襲っているようだ。
本人は遊んで欲しいだけなのだろうが、活発なみるくと違い、まろはおっとりとしているのでついていけないのだ。
助けを求めるようにやって来たまろを抱っこする。すると、さすがにみるくも追いかけるのを止めた。
そんな、この家の日常となりつつある光景を目にした千夜が、みるくとまろをそれぞれじっと見つめる。
「……ふーん。そうかそうか」
なにがそうかなのか分からない柚子と違い、玲夜の眼差しが鋭くなる。
「どうですか?」
「うん。玲夜君の言っていた通りだね」
「そうですか、やっぱり」
柚子を置いて会話をしているふたりに、柚子は首を傾げる。
「ねえ、玲夜。やっぱりってなに?」
「この猫たちのことだ」
「まろとみるくがどうかしたの?」
その疑問に答えたのは千夜だ。
「うん。この子たちはただの猫じゃなくて、霊獣みたいなんだよねー」
そう言われても柚子には霊獣がなにか分からず首を傾げる。
「霊獣……? あやかしとは別物?」
「霊獣はあやかしに似ているが、もっと崇高な存在。あやかしよりも神に近い生き物だ」
その玲夜の説明に柚子は目を丸くする。
「えっ、神様? ただの猫じゃないの?」
「ああ。子鬼が陰陽師にやられただろう?」
「うん」
「本当なら俺のところまでは保たなかった。けれど、その猫たちが子鬼に霊力を分け与えていたから、なんとか形を維持できていたようだ」
「そうなの?」
驚いたようにじーっとまろを見ると「アオーン」とひと声鳴いた。
まるで柚子たちの会話を理解していて、そうだと返事をするように。
確かにおかしなことはあった。
津守の座敷牢で柚子が危機の時、助けに入ったまろとみるく。
二匹がどうやってあの場に現れたのか謎だったが、ただの猫ではなく霊獣という不思議な存在だというのならすべて納得できる。
「そっか。なんでもいいや。まろもみるくもかわいいから」
「ニャーン」
「アオーン」
かわいければすべて許されるのだ。



