***
「う……」
わずかな頭の痛みとだるさに目を覚ました柚子は、知らない部屋にいることを不思議に思った。
しかし、次の瞬間には走馬灯のように先ほどのことが頭の中を駆け巡り、慌てて飛び起きた。
「っつ」
痛む頭を押さえ、周囲を見回す。
一見すると和室に布団が敷かれた普通の部屋に見えるが、片側一面に鉄格子が張られ、外に出られないようになっている。
座敷牢のようなその場所に柚子は閉じこめられていた。
ゆっくりと立ち上がって、鉄格子の扉を掴んで押したり引いたりしてみたが、見た目通りの頑丈さで、とても柚子ひとりの力では出られそうにない。
外と連絡を取ろうにも、スマホは梓に取られたままだ。
気を失う前の最後の光景が頭に浮かぶ。
「子鬼ちゃん……」
あれほどに苦しんだ姿を見たことがなかったので、今頃どうしているのか。
子鬼たちだけでも逃げられただろうかと、心配と不安が柚子を襲う。
「玲夜……」
愛しい人の顔が浮かぶ。
鬼龍院の餌だと言った幸之助。
どう餌として使われるのか不安でならないが、玲夜の迷惑になることは確実だ。
あれからどれだけの時間が経ったか時計がないので分からないが、きっといなくなったことで心配をさせているだろう。
玲夜の迷惑になっている。それが悔しくて、情けなくて柚子は自分が嫌になる。
なんとかしてここから出られないものか。
使えそうな物を探すが、柚子が寝ていた布団ぐらいしかない。
それならばと、布団を体に巻き付け、助走をつけて扉に体当たりをしようとしたその時。
ひょっこりと姿を見せたその人物に目を見開いた。
「……何してんの、柚子?」
「……浩介、君?」
目を疑ったが、そこにいるのは間違いなく柚子と幼馴染みである浩介だった。
最近は毎日のように会っていたのだ、見間違えるはずもない。
けれど、どうしてここにいるのかと柚子は混乱した。
「浩介君……本物?」
「どこから見ても俺だろ。こんなイケメン間違えるなよ。それより蓑虫みたいにしてなにしてんだ?」
「体当たりして壊そうとしてるの。……ってどうして浩介君がいるのよ!」
柚子は布団を投げ飛ばし、鉄格子に近付く。
「どうしてって、柚子の様子を見に来たんだよ」
ヘラヘラと笑って答える浩介だが、柚子が聞きたいのはそういうことではない。
「そう意味じゃない! ここは津守って人の屋敷でしょう? 浩介君がどうしてこんなところにいるの!?」
「どうしてって、兄弟だから」
「兄弟……?」
その答えは柚子にとって予想外のことで、唖然とする。
「そっ、津守幸之助は俺の兄貴。って言っても異母兄弟だけどな」
「どういうこと? 浩介君ってひとりっ子だったはず」
柚子の記憶にある浩介に兄弟がいた記憶はない。
「言っただろう、異母兄弟だって。あっちは本妻の子で、俺はいわゆる愛人の子ってやつ。俺だって小学生の時までは母親違いとは言え兄貴がいるなんて知らなかったんだよ。知ったときは驚いたなぁ」
などと呑気に説明する浩介に、なにがなんだか分からない柚子は怒りが湧く。
「……話して! 全部。これまでのこと!」
「分かった、分かった。だからちょっと落ち着けって」
落ち着けるわけがない。今柚子は拉致監禁されているのだ。
けれどそんな柚子にかまわず、浩介は鍵を使って鉄格子に付いた扉の南京錠を外すと、中に入ってきた。
こんな状況で浩介に気を許せるはずもなく、柚子は警戒しながら距離を取り浩介を見る。
そんな柚子に浩介は苦笑する。
「そんな猫が毛を逆立てたみたいに威嚇しなくても、なにもしないよ。柚子は大事な幼馴染みなんだからよ」
「だったら、ここから出して。玲夜のところに返して!」
「それはできない」
浩介は即答する。
考えたくなかった。あの仲のよかった浩介のことをそう思いたくなかったが、浩介は柚子を捕らえた幸之助側の人間のようだ。
「う……」
わずかな頭の痛みとだるさに目を覚ました柚子は、知らない部屋にいることを不思議に思った。
しかし、次の瞬間には走馬灯のように先ほどのことが頭の中を駆け巡り、慌てて飛び起きた。
「っつ」
痛む頭を押さえ、周囲を見回す。
一見すると和室に布団が敷かれた普通の部屋に見えるが、片側一面に鉄格子が張られ、外に出られないようになっている。
座敷牢のようなその場所に柚子は閉じこめられていた。
ゆっくりと立ち上がって、鉄格子の扉を掴んで押したり引いたりしてみたが、見た目通りの頑丈さで、とても柚子ひとりの力では出られそうにない。
外と連絡を取ろうにも、スマホは梓に取られたままだ。
気を失う前の最後の光景が頭に浮かぶ。
「子鬼ちゃん……」
あれほどに苦しんだ姿を見たことがなかったので、今頃どうしているのか。
子鬼たちだけでも逃げられただろうかと、心配と不安が柚子を襲う。
「玲夜……」
愛しい人の顔が浮かぶ。
鬼龍院の餌だと言った幸之助。
どう餌として使われるのか不安でならないが、玲夜の迷惑になることは確実だ。
あれからどれだけの時間が経ったか時計がないので分からないが、きっといなくなったことで心配をさせているだろう。
玲夜の迷惑になっている。それが悔しくて、情けなくて柚子は自分が嫌になる。
なんとかしてここから出られないものか。
使えそうな物を探すが、柚子が寝ていた布団ぐらいしかない。
それならばと、布団を体に巻き付け、助走をつけて扉に体当たりをしようとしたその時。
ひょっこりと姿を見せたその人物に目を見開いた。
「……何してんの、柚子?」
「……浩介、君?」
目を疑ったが、そこにいるのは間違いなく柚子と幼馴染みである浩介だった。
最近は毎日のように会っていたのだ、見間違えるはずもない。
けれど、どうしてここにいるのかと柚子は混乱した。
「浩介君……本物?」
「どこから見ても俺だろ。こんなイケメン間違えるなよ。それより蓑虫みたいにしてなにしてんだ?」
「体当たりして壊そうとしてるの。……ってどうして浩介君がいるのよ!」
柚子は布団を投げ飛ばし、鉄格子に近付く。
「どうしてって、柚子の様子を見に来たんだよ」
ヘラヘラと笑って答える浩介だが、柚子が聞きたいのはそういうことではない。
「そう意味じゃない! ここは津守って人の屋敷でしょう? 浩介君がどうしてこんなところにいるの!?」
「どうしてって、兄弟だから」
「兄弟……?」
その答えは柚子にとって予想外のことで、唖然とする。
「そっ、津守幸之助は俺の兄貴。って言っても異母兄弟だけどな」
「どういうこと? 浩介君ってひとりっ子だったはず」
柚子の記憶にある浩介に兄弟がいた記憶はない。
「言っただろう、異母兄弟だって。あっちは本妻の子で、俺はいわゆる愛人の子ってやつ。俺だって小学生の時までは母親違いとは言え兄貴がいるなんて知らなかったんだよ。知ったときは驚いたなぁ」
などと呑気に説明する浩介に、なにがなんだか分からない柚子は怒りが湧く。
「……話して! 全部。これまでのこと!」
「分かった、分かった。だからちょっと落ち着けって」
落ち着けるわけがない。今柚子は拉致監禁されているのだ。
けれどそんな柚子にかまわず、浩介は鍵を使って鉄格子に付いた扉の南京錠を外すと、中に入ってきた。
こんな状況で浩介に気を許せるはずもなく、柚子は警戒しながら距離を取り浩介を見る。
そんな柚子に浩介は苦笑する。
「そんな猫が毛を逆立てたみたいに威嚇しなくても、なにもしないよ。柚子は大事な幼馴染みなんだからよ」
「だったら、ここから出して。玲夜のところに返して!」
「それはできない」
浩介は即答する。
考えたくなかった。あの仲のよかった浩介のことをそう思いたくなかったが、浩介は柚子を捕らえた幸之助側の人間のようだ。