「はははっ、あやかしは花嫁を溺愛すると聞きますが、聞きしに勝る愛しっぷりですな。あてられてしまいそうですよ」


 豪快に笑う大臣を一瞥した玲夜は、周囲に視線を巡らせてから大臣に視線を戻す。


「他にも挨拶回りをしなければならないので、これで失礼する」

「ええ、そうですな。私ばかりが独占しているわけにもいきますまい。話したい者は他にたくさんいるようだ」


 くるりときびすを返した玲夜に付いていくと、次から次へと挨拶をしに人がやってくる。

 その半数が年頃の女性を伴っており、女性は玲夜に熱い眼差しを向けていたが、玲夜はそれを黙殺。女性と目すら合わせない。

 代わりに、見せつけるかのように柚子に蕩けんばかりの笑みを向ける。
 それを見た女性は、表情を暗くする者。ショックを受ける者。憎々しげに柚子を睨む者と、三者三様の反応を見せた。

 隣に玲夜がいるからか、あからさまに柚子を攻撃してくる者はいないが、女性たちからの視線が痛くて穴が開きそうだ。
 いや、その前にストレスで胃に穴が開くかもしれない。
 早く解放されたいと思うも、人が途切れずやってくる。
 笑みを絶やさないようにしていた顔がさすがに引き攣ってきそうになる頃、やっと波が引いた。
 それを見計らったようにやってきたのが、透子と東吉だ。


「柚子」

「透子~」


 見知った顔を見て、緊張していた心がほっと緩む。


「お疲れ様ね」

「ほんとに……」


 あやかしの酒宴の時はこれほどに女性たちからの敵意を感じなかったので、緊張はしてもそれほど疲れなかったが、今回は本当に疲れた。
 精神がゴリゴリと削られた気がして、柚子は深い溜息をついた。
 すると、それを見ていた玲夜が柚子のセットされた髪を崩さない程度に優しく撫でる。


「本当はまだ挨拶回りをしておきたいんだが……」


 頬を引き攣らせた柚子を見て、玲夜は苦笑し、それから東吉と透子を見た。


「柚子を任せていいか?」

「かまいませんよ~」


 と、透子が軽く返す。


「一緒に行かなくていいの?」


 自分は役に立たなかったかと柚子は不安に思ったが、玲夜はそんなことを気にしてはいなかった。


「柚子はここまでよくやっている。まだこういう場は二度目なんだから、完璧にする必要はない。疲れただろうから、ふたりと一緒にゆっくりしているといい」

「そうよ。若様の言う通り、最初っからできるわけないんだからさ。後は若様に任せて私たちは食事でもしてましょう。あっちにスイーツコーナーあったのよ。制覇しに行かないと」

「お前はもう少し柚子の真面目さを見習え」


 東吉にツッコミを入れられたのを無視して、透子は柚子の手を引いて歩き出す。


「じゃあ、若様、柚子を借りていきますね~」

「ああ、任せた」


 玲夜に対しても透子は透子らしく態度を変えたりしない。まあ、多少ぽーっと見惚れている時もあるが許容範囲の反応である。
 玲夜もそんな透子を柚子の友人として認めているようだ。
 大事な柚子を任せるほどには。


 柚子は透子と東吉と一緒に、料理やスイーツが並ぶテーブルにやってきた。
 さすが誰もが知る高級ホテルの食事。色鮮やかでどれも美味しそう。
 お皿を取って気になったものを乗せていく。
 一口食べて、その美味しさに感動する。


「このローストビーフ美味しいっ」

「こっちのソースも、うまっ」

「お前ら、一応パーティーなんだから、お淑やかに食べろよぉ。フードファイトしにきたんじゃないんだから」

「分かってるわよ、にゃん吉は一々うるさいわね」

「にゃん吉君て、おかんだよね」


 柚子がそう言うと、透子がケラケラ笑った。


「誰が、おかんだ!」

「あははっ、その通りじゃない。ナイスだわ、柚子」


 そんな他愛ない会話をしながら食事をして、次にスイーツコーナーに移動する。
 さすがに種類が多すぎて全種制覇は無理だったが、満足するほどいろいろな種類を食べまくった。