そうして東吉の家にやって来たが、二匹の猫は柚子のそばから離れない。

 お腹が空いているだろうと、透子が餌で釣ろうとしているが、透子に近付きもせずに柚子の膝の上に座り込んでいる。

 代わりに柚子があげるとガツガツと食べ始め、完食してひと息ついたかと思ったら、茶色い猫が黒い猫に襲いかかる。黒い猫がミギャーと叫び、慌てて引き剥がし黒い猫を抱き上げるとほっとしたようにしていた。茶色い猫は喧嘩を仕掛けたというよりは遊んで欲しそうな感じだったけれど、黒い猫はひどく迷惑そう。

 よくこれで一緒にいたものだと不思議に思う。
 これまでどうしていたのやら。

 黒い猫が遊んでくれないと分かると、茶色い猫は部屋の中を走り回り始めた。
 捨て猫のわりに元気はいっぱいのようだ。

 次に、この猫たちを今後どうするかの話し合いが始まった。


「にゃん吉君のとこで引き取れる?」


 東吉は猫たちを見て難しそうな顔をした。


「もともとうちは猫が多いし引き取るのは問題ないが……」


 東吉が、柚子に抱っこされている黒い猫に手を差し出した。驚かさないようにゆっくりと距離を縮めたが、東吉が近付くだけで黒い猫は威嚇している。そして、助けを求めるように柚子に縋りついた。


「うーん、これだけ懐いてないとかなり厳しいぞ。ご飯も俺らから食べようとしないし」


 東吉の言う通り、拾ってきたこの猫たちは柚子以外からご飯を食べようとしない。
 逆になぜこんなに柚子にはべったりなのかと疑問に思うほど柚子に懐いている。
 猫又のあやかしだけあって東吉は猫に好かれやすいのだが、この猫二匹は東吉に見向きもしない。
 すると、そんな猫たちを見ていた透子から提案が。


「柚子は飼えないの?」

「えっ、私が?」

「そうそう。それだけ柚子に懐いているなら、その子たちも柚子に引き取られた方が幸せなんじゃないの?」

「うーん……」


 柚子は抱っこしている黒い猫を見下ろす。じーっと見ていると、黒い猫の方も柚子の顔をじっと見る。そして、まるで何かを訴えかけるように一声鳴いた。


「アオーン」


 すると、茶色い猫も走り回るのを止めて柚子のそばに寄ってきた。
 ちょいちょいと前足で、柚子の腕をタッチしてくる。


「……ちょっと玲夜に電話してみる」


 玲夜の家に居候している身としては、柚子の独断で猫を飼うと言えない。
 その場で玲夜に電話をかけると、すぐに出た。


「もしもし、玲夜?」

『どうした? 珍しいな、柚子から電話してくるなんて。なにかあったか?』

「なにかあったって言ったらあったんだけど。ちょっと相談というかお願いというか……」

『なんだ?』

「猫を拾ってね。それで、にゃん吉君のところで引き取ってもらおうと思ったんだけど、私にすごく懐いててね。ものすっごくかわいいの。それで……」


 柚子はなんと言ったら玲夜が猫を飼うことを了承してくれるかと必死で考えを巡らせながら話すが、決定的な言葉が思いつかない。
 すると玲夜の方から切り出してくれた。


『飼いたいのか?』

「うん。駄目かな?」


 そもそも玲夜は動物が好きなのか知らなかった。もし動物嫌いならどうしようか。
 そう不安になっていると、玲夜の優しい声が耳に入ってくる。


『柚子が飼いたいと思うならそうしたらいい』

「いいの? 玲夜は猫嫌いじゃない?」

『好きでも嫌いでもないな。だが、柚子が飼いたいなら猫の一匹ぐらいいてもかまわない』

「あっ、一匹じゃなくて二匹なの!」


 そこをしっかり言っておかねばならない。


「それでもいい?」

『ああ。屋敷の者には俺から言っておく。帰る頃には必要な物が揃っているはずだ』


 すんなりと許可をもらえて柚子は自然と笑みがこぼれた。


「ありがとう、玲夜!」

『ああ。礼は後でちゃんともらうからな』


 いつものおねだりのためのキスのことを言っていると理解して、柚子の頬が紅くなる。
 そうして電話を切った柚子は、膝の上にいた黒い猫を高く抱き上げて喜びを表す。


「玲夜がいいって。今日からうちの子だよー」

「アオーン」

「ニャン」


 猫たちも柚子の言葉が分かっているかのように鳴き声を上げた。


「よかったわね、柚子」

「うん。ありがとう。透子、にゃん吉君」

「俺らはなにもしてないさ。……けどなぁ」


 東吉は突然猫たちを睨むように真剣に見つめたかと思ったら、首を傾げた。


「うーん……」

「何よ、にゃん吉」

「いや、こいつらなんか普通の猫とどこか変わっているような……」

「なによ、懐かれなかったから根に持ってるの?」

「ちげーよ。けどなんか、言葉にしづらいんだがこう、どことなく……。お前らなにも感じないか?」


 柚子と透子は猫たちを見た後、目を合わせて互いに首を傾げた。


「全然」

「にゃん吉の気のせいじゃない?」

「そうか?」


 はっきりとしない東吉は、自分でもよく分かっていないようだ。
 猫の専門家とも言っていい猫又に分からないことが、普通の人間の柚子や透子に分かるはずがない。