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覚えることは多いが、柚子の大学生活は一応順調である。
しかし、この大学で友人を作ることはあきらめた。
やはりどうしても鬼龍院というのを切っても切り離せないようで、皆が皆柚子よりも柚子の後ろにいる玲夜の存在を意識してしまうようだ。
まあ、無理はないのだろう。
あやかしの世界だけでなく、人間の世界でも、政界、経済界に強い影響力を持つ鬼龍院の次期当主の花嫁なのだ。
媚びる者、怯える者、妬む者、関わり合いになりたくない者。反応は様々だが、対等な友人関係は築けそうになかった。
だが、これも玲夜の花嫁であることを受け入れた以上は仕方がないとあきらめるしかない。
幸いなことに、柚子には透子と東吉がいるし、東吉を通して蛇塚とも仲良くなった。最近ではその友人の中に浩介も加わった。
桜子とも良好な関係を築けているので、居心地が悪いということはなかった。
残念ながら梓とは、蛇塚と仲良くしているために警戒心を持たれてしまっているようで、話をすることはなくなってしまった。当初は同じ花嫁同士で仲良くなれるかもと思ったのだが、梓と蛇塚の関係が今のままだと少し難しそうだ。
そんな梓は、蛇塚と言い争いをしている場面を大学内でよく見られることから、周囲の者もあまり関わり合いになりたくないようで、仲のいい相手を見つけられずいつもひとりでいるのを見る。
蛇塚によると、梓はもともとかくりよ学園とは別の短大に入る予定だったのが、蛇塚の花嫁になったことで急遽変更となった経緯があるそうだ。
行きたかった大学を諦め、突然通うことになった大学では仲のいい相手も見つけられず、蛇塚とも険悪な関係でいる梓に同情心が芽生えないわけではない。
しかし、蛇塚のことに関してはもう少し歩み寄れないだろうかと思ってしまうのは、己が恵まれた環境にいるからなのだろうか。
できることなら、蛇塚の優しさに梓が気付けばいいなと柚子は思う。
少し難しいことなのかもしれないが……。
そんな心配事はありつつも、平穏な日常を送っていたある日。
柚子は帰宅するために迎えの車が来る駐車場へ行く途中の道で猫の声がした気がして、道の横に生えていた草をかき分けて覗くと、汚い段ボール箱に入った猫を二匹見つけた。
一匹は、ちょっとぽっちゃりだが凛々しい顔で、瞼の上あたりがハゲて白っぽい黒猫。
そしてもう一匹の茶色いヒョウ柄の猫は、しなやかな体躯で、顎下だけ毛が白く、黒猫より一回りほど小さい。
「アオーン」
「ニャーン」
ちょっと黒猫の方は猫らしくない鳴き方をしているが、どちらもかわいい。
「捨て猫?」
周囲を見渡してみるが、一緒にいる透子と東吉以外誰もいない。
拾って下さいと言わんばかりに見つめられて、柚子は見て見ぬふりできなかった。
手を近付けると、自分から頭を差し出し擦り付けてくる。
とても人懐っこい。なおさら放っておけなくなる。
「どうしよう?」
透子と東吉を見ると、ふたりも困った顔をした。
「どうしようと言われてもねぇ……」
「こんな所で箱に入れられているんだ、捨て猫っぽいな」
じーっと猫達と視線が合う。そして悲しそうに「にゃーん」と鳴かれる。
「うっ……」
柚子はその眼差しに負けた。
「こんなところに置いとけないよぉー」
猫二匹を抱き上げた。
ぽっちゃりした黒猫の方が重かったが、抱き上げても嫌がる素振りはなく大人しくしていた。
「柚子、置いておけないっていってもその子たちどうするのよ」
「……どうしよう」
計画性はない。ただ、こんな人気のないところにおいてもいけない。
「にゃん吉君……」
今度は柚子が助けを求めるように東吉を見ると、東吉は仕方がなさそうにした。
「とりあえず俺の家に連れてくるか?」
「ありがとう」
猫屋敷といっても過言ではない東吉の家には、たくさんの猫がいる。
ひとまずこの子たちを避難させるにはいいだろう。
後のことはそれから考えることにした。