「おい、柚子。こいつ全然変わってなくないか? もっと女らしくなっているかと思ったのに、柚子を見習えよ男女」
「なんですって!?」
「大丈夫、透子はにゃん吉君の前では普通に女の子になってるから」
「にゃん吉君?」
浩介は、誰それという顔をする。
「透子の彼氏」
「えっ嘘マジで!? こいつに彼氏できたの? そいつどんだけ趣味悪いんだ! 笑える、あははは……ぐふっ……」
ゲラゲラ笑う浩介のボディに透子のエルボーが入った。
「くっ、やっぱり男女じゃねぇか……」
「ふんっ」
息絶え絶えの浩介を無視して、透子は椅子に腰を下ろす。
柚子も座り直すと、その隣に浩介も座った。
「にしても変わってないなぁ、柚子も透子も。すぐ分かったよ」
「そんなことないと思うけどなぁ」
「いや、相変わらずかわいいって」
浩介が柚子に手を伸ばし、頭に触ろうとしたその時……。
「あーい!」
「あいあい!」
触るなとでも言うように、子鬼が飛び出してきて浩介の手を叩き落とした。
「うわっ! ……えっ、なにこれ?」
突然現れた子鬼に驚く浩介は、目を丸くして子鬼を指差した。
「子鬼ちゃん。私のボディーガード」
「ボディーガード? いやっ、これなに!?」
「だからボディーガードだってば。玲夜が作ってくれた使役獣なの」
「使役獣ってあれだろ? あやかしが作れるってやつ」
「そうそれ。よく知ってるね」
「なんでそんなのが柚子のボディーガードなんてしてるんだよ? ってか玲夜って誰?」
訳が分からない様子の浩介に、透子が説明する。
「あんたこの大学通っているんでしょ? 噂ぐらい聞いたことあるんじゃないの? 鬼龍院の若様の花嫁がこの大学に通っているって」
「おお、知ってる知ってる。あやかしの知り合いはいないけど、人間にも噂に詳しい奴はいるからさ。すごいよな、あの鬼龍院の次期当主の花嫁だぜぇ。玉の輿だよな……ってそう言えば鬼龍院の次期当主の名前は玲夜だったような……まさか」
話しているうちにだんだん表情を変えていった浩介は、信じられないという顔で柚子を見た。
「そのまさかよ、馬鹿」
透子が呆れたようにしていると、浩介は人目も気にせず驚いた。
「ええー、マジ!? 柚子花嫁になったのか!? しかも鬼龍院って」
「ちなみに透子は猫又のあやかしの花嫁だよ」
柚子が透子の情報も付け加えたが……。
「……そっちの方には憐憫を感じるわ。かわいそうに、こんなのが花嫁で……」
「殴るわよ」
「そういうところだよ、俺がお前を男女って言うのは!」
話をしながら、柚子はすごく不思議な気分になっていた。小学生の時に別れて以来会っていなかったというのに、そんなことを感じさせないほど自然に浩介が加わっている。
「はー、時の流れは偉大だなぁ」
しみじみとする浩介はなんだか年寄り臭い。
「そんなあんたこそ、どうして急にいなくなったのよ。私たちにひと言ぐらいあってもよかったんじゃないの?」
透子がジトっとした眼差しで文句を口にする。
仲のよかった友人がなにも言わずいなくなったことに、柚子も透子も当時はかなりショックだったのだ。
「仕方ないだろ。ちょっと家庭の事情で夜逃げ同然に引っ越して、お前たちに言う暇なんてなかったんだから」
「でもその後電話ぐらいできたでしょう?」
「薄情者め。あんたはそういう奴よね」
柚子と透子で責めると、浩介はたじろいだ。
「いや、その後は電波も繋がらないような山奥に行かされていたから連絡手段がなかったんだよ」
「海外でも行っていたの?」
「いんや、日本だけど、すっごい僻地」
「どうしてそんなところに?」
「ふっふっふっ、それは機密情報だ」
「あっそ」
透子は一瞬で興味をなくしたようだ。
「なんだよ、透子は冷たいよなぁ。……それにしても残念だ。すんげぇ残念だわ」
「なにが?」
「だって柚子が花嫁になってるなんてよ。知ってるか? 俺柚子のこと好きだったんだぜ」
「へぇ、浩介の分際で厚かましい」
透子から冷たい眼差しが浩介に向けられる。
「なんだよ、好きになるのは自由だろ。……今からでも遅くないから鬼なんて止めて俺にしとかないか? やっぱり人間は人間同士の方がいいって」
本気なのか、冗談なのか、浩介の顔からは判別がつかない。柚子がなにかを答えようとする前に透子が切り捨てる。
「あー、無理無理。若様とあんたじゃスペックが違いすぎるもの」
「そんなの分からないじゃんか」
「分かる分かる。比べるまでもないわ。来来来世に期待しなさい」
「来来来世って……。そこまで言うか? 柚子はどうなんだ。そいつのこと好きなの?」
「うん。玲夜のことは好きよ」
即答する柚子に、浩介は大袈裟に嘆いた。
「がーん。ショックだ。再会直後にフラれたぁぁ」
「身の程をわきまえないからよ」
「透子、お前はほんとに昔っからひと言多いんだよ。そうだよ、覚えてるか? 遠足のあの時だってお前がさ……」
それから、柚子たちは久しぶりの再会を懐かしみながら昔話に花を咲かせた。