一章
柚子の通う高校では、大学受験の日が迫ってきて、進学組の三年生はなにかとピリピリし出してきた。
そんなとある日、柚子は教師に呼ばれて職員室にやって来た。
基本真面目で授業態度も成績もそこそこよく、教師からの評価も高い柚子が、教師に呼び出しをされることはこれまで滅多になかった。
けれど最近では、子鬼のやらかしで呼び出されることが増えていた。
柚子を花嫁に選んだ玲夜が柚子の護衛のために作り出したふたりの子鬼は、その見た目のかわいさに反して、そこらのあやかしぐらいなら倒してしまえるほどの霊力を込められている。
柚子以外にはクールな玲夜から作られたとは思えない愛想のよさを持った子鬼たちだが、やんちゃな面も兼ね備えていたので、最近は柚子の頭が痛い問題を起こすことがあった。
例えば、男子生徒に見せられたゲームの動画を見て、主人公の必殺技を真似して花瓶を破壊したり。
例えば、全校集会で、イケメンと人気だった教師のヅラを取りキャッチボールを始め、全校生徒の前で若ハゲを暴いたり。
例えば、雨の日の水溜まりでスライディングをして全身を汚したまま廊下を走って泥だらけにしたり。
他にも多数、例を挙げればきりがない。
だいたいは、目をウルウルさせた上目遣いの子鬼のかわいさに撃沈し、最終的には仕方ないねという空気になるのだが、さすがにヅラを全校生徒の前で取られた教師は不憫だった。
これには、子鬼に甘い教師たちも雷を落とし、柚子は若ハゲ教師に菓子折を持って謝りに行くことになった。
なので、また子鬼がなにかやらかしたのだろうかと思いながら職員室に入り、担任の教師のところへ行く。
「おお、来たか」
「先生、また子鬼ちゃんたちがなにかしましたか?」
子鬼たちは怒られるのではないかと、柚子の肩の上でビクビクしている。
怯えるということは、心当たりがあるのだろう。今度はいったいなにをやらかしたのやら。
今度という今度は柚子も甘い顔はせず玲(れい)夜(や)から叱ってもらおうかと考えていると、担任は柚子の肩に乗った子鬼たちを苦笑交じりで一瞥した後、柚子に視線を戻した。
「いや、今回は違うぞ」
それを聞いて子鬼たちは、あからさまにほっとしていた。
「じゃあ、もしかして私ですか?」
「ああ。これだよ、これ」
そう言って差し出された一枚の紙。それは柚子の進路の希望を書いたものだ。
「進路希望の紙は出していたはずですけど、不備がありましたか?」
「いや、お前その進路で本当にいいのかと確認しておこうと思ったんだよ」
「なんの確認ですか?」
「お前花嫁になったんだろう?」
「はい」
今さら確認せずともこの学校の人間なら誰でも知っているはずなのに、なぜ聞くのかと柚子は不思議に思う。
「花嫁なのに、そんな遠くの大学でいいのか?」
「……あっ!」
そこでようやく合点がいき、マズいことに気が付いた。
「全然よくないです!」
「なら早めに保護者と話し合って訂正してこいよ。じゃないと受験日なんてあっという間に来るぞ」
「はい」
気を利かせてくれた担任に感謝しながら職員室をあとにした柚子は、教室に戻って頭を抱えた。
柚子の通う高校では、大学受験の日が迫ってきて、進学組の三年生はなにかとピリピリし出してきた。
そんなとある日、柚子は教師に呼ばれて職員室にやって来た。
基本真面目で授業態度も成績もそこそこよく、教師からの評価も高い柚子が、教師に呼び出しをされることはこれまで滅多になかった。
けれど最近では、子鬼のやらかしで呼び出されることが増えていた。
柚子を花嫁に選んだ玲夜が柚子の護衛のために作り出したふたりの子鬼は、その見た目のかわいさに反して、そこらのあやかしぐらいなら倒してしまえるほどの霊力を込められている。
柚子以外にはクールな玲夜から作られたとは思えない愛想のよさを持った子鬼たちだが、やんちゃな面も兼ね備えていたので、最近は柚子の頭が痛い問題を起こすことがあった。
例えば、男子生徒に見せられたゲームの動画を見て、主人公の必殺技を真似して花瓶を破壊したり。
例えば、全校集会で、イケメンと人気だった教師のヅラを取りキャッチボールを始め、全校生徒の前で若ハゲを暴いたり。
例えば、雨の日の水溜まりでスライディングをして全身を汚したまま廊下を走って泥だらけにしたり。
他にも多数、例を挙げればきりがない。
だいたいは、目をウルウルさせた上目遣いの子鬼のかわいさに撃沈し、最終的には仕方ないねという空気になるのだが、さすがにヅラを全校生徒の前で取られた教師は不憫だった。
これには、子鬼に甘い教師たちも雷を落とし、柚子は若ハゲ教師に菓子折を持って謝りに行くことになった。
なので、また子鬼がなにかやらかしたのだろうかと思いながら職員室に入り、担任の教師のところへ行く。
「おお、来たか」
「先生、また子鬼ちゃんたちがなにかしましたか?」
子鬼たちは怒られるのではないかと、柚子の肩の上でビクビクしている。
怯えるということは、心当たりがあるのだろう。今度はいったいなにをやらかしたのやら。
今度という今度は柚子も甘い顔はせず玲(れい)夜(や)から叱ってもらおうかと考えていると、担任は柚子の肩に乗った子鬼たちを苦笑交じりで一瞥した後、柚子に視線を戻した。
「いや、今回は違うぞ」
それを聞いて子鬼たちは、あからさまにほっとしていた。
「じゃあ、もしかして私ですか?」
「ああ。これだよ、これ」
そう言って差し出された一枚の紙。それは柚子の進路の希望を書いたものだ。
「進路希望の紙は出していたはずですけど、不備がありましたか?」
「いや、お前その進路で本当にいいのかと確認しておこうと思ったんだよ」
「なんの確認ですか?」
「お前花嫁になったんだろう?」
「はい」
今さら確認せずともこの学校の人間なら誰でも知っているはずなのに、なぜ聞くのかと柚子は不思議に思う。
「花嫁なのに、そんな遠くの大学でいいのか?」
「……あっ!」
そこでようやく合点がいき、マズいことに気が付いた。
「全然よくないです!」
「なら早めに保護者と話し合って訂正してこいよ。じゃないと受験日なんてあっという間に来るぞ」
「はい」
気を利かせてくれた担任に感謝しながら職員室をあとにした柚子は、教室に戻って頭を抱えた。