「かくりよ学園のカフェって品揃え豊富」
「ほんとだね。それに味も美味しいんだって。全メニュー制覇目指そう」
味がいいとは、ここの卒業生である雪乃からの情報だ。しかしその分、学食にしては少し値段が高いのが難点だ。
支払いは学園から配られるカード型の学生証を使い、後払いになっている。
カフェに限らず、購買も同じ支払い方法。
なのでお金を持ち歩く必要はないが、気を付けなければひと月後に予想外な金額が請求されることもあり得る。
まあ、柚子の場合は玲夜が払うので心配をする必要はないが、一般受験で受かった一般家庭出身の学生は気を付けなければならないだろう。
飲み物とケーキを購入した四人は空いた席に座った。ちなみに落ち着きを取り戻した蛇塚の飲み物とケーキは、泣かせた東吉のおごりである。
「まず自己紹介だな。透子と柚子は初対面だから」
東吉が指をさしながら説明していく。
「まず、こっちが透子。俺の花嫁だ。そんでその隣が柚子。あの鬼龍院様の花嫁だ」
鬼龍院と聞いて驚いた顔をした蛇塚に、柚子と透子はよろしくと頭を下げる。
「そんで、このでかい図体のわりに涙もろい男が、蛇塚柊斗。蛇のあやかしで俺らと同じ新入生だ」
「蛇塚です」
礼儀正しく頭を下げる蛇塚。
見た目は怖いが、どうやら本人は悪い人ではなさそう。
東吉とも仲がよさげである。
「こいつとは中等部までよくつるんでいたんだよ」
中等部まではかくりよ学園に通っていた東吉。ここに友人がいてもおかしくない。
「へえ」
「だから、こいつに花嫁が見つかったってのは聞いていたんだけどさ……なんか仲悪いのか?」
核心を突く東吉の言葉に、再び蛇塚の目が潤んでくる。
「おいおい、大丈夫か?」
こくりと頷く蛇塚。
「さっきの子はお前の花嫁で間違いないんだな?」
蛇塚は再びこくりと頷く。
あまり口数は多くない人のようだ。
「花嫁の割に梓はあなたのことすっごく嫌がっていたみたいだけど? 嫌悪感丸出しで、あれは毛虫を見るような目だったわね」
蛇塚はドーンと重しが乗ったように落ち込む。
「透子、オブラート! もっと包んで」
柚子は蛇塚の様子を見て、慌てて透子をたしなめる。
「ええっ、えーっと……」
遠回しな言い方が苦手な透子が言葉に迷う。
どうにもこの蛇塚という男は、見た目が厳ついわりに心はかなり繊細のようだ。
「どうやって出会ったんだ?」
東吉の問いに、蛇塚は重い口を開いた。
「あやかしと人間の親睦パーティーで見かけて……。嬉しくて舞い上がったけど、俺目つき悪いから……。急に話しかけたら怖がらせるかと思ってその時は声をかけられなくて」
「にゃん吉とは真逆の性格ね」
「悪かったな。花嫁見つけて舞い上がってその場で突撃したアホな男だよ! 即、切り捨てられたけどな!」
「当然でしょう。どこの世界に初めて会った男に告白されて了承する女がいるのよ。いるなら見てみたいわ」
始まった夫婦喧嘩を納めるべく、柚子はパンパンと手を叩く。
「はいはい、夫婦喧嘩は後で。それで蛇塚君はどうしたの?」
「その女の子のことを調べて梓って名前を知った。けど、こんな怖い顔の俺が急に花嫁って言っても困らせるだけだろうから、とりあえず梓の両親の方に話を持っていったんだ。そしたら是非にって返事がきた。梓も花嫁になることを了承しているって聞いて嬉しくて。それからはトントン拍子に話が進んで、俺の家で一緒に暮らすってことになったんだ。けど、家に来た梓はその時からあんな調子で、俺のことを嫌っていて、まともに話すらしてくれなくて……」
目がウルウルとしてきた蛇塚にハンカチを差し出す。
「でもさ、あっちは花嫁になることを了承したんだろう? その反応おかしくね?」
東吉の疑問は柚子も感じた。
蛇塚の話を聞いている限りでは、話の進め方はとても紳士的で、無理強いしている様子はない。
そんなに嫌ならば断ればよかったと思うのだが。