そうして、無事に入学を果たした柚子は、朝からバタバタと準備に忙しくしていた。

 制服のある高校と違って、大学は私服。当初の心配通り、変な格好をして周りから遅れを取らないよう大学生らしく少し大人っぽい服を選んだりと、服装にも気を付けなければならない。

 まあ、柚子に用意された服はどれも柚子に合ったデザインの高級品ばかりなので、資産家の子が多いかくりよ学園でも変に浮くことはまずないだろう。
 だが、周囲を見ていると年齢が変わらないはずなのに、やけに大人っぽい人が多く感じて、自分が子供に見えてしまう気がした。
 高校の時はそんなことを思ったことはなかったのだが、私服になった途端急に周りが大人になった気がする。

 なので、その日の服選びにも力を入れてしまうのだが、その結果として部屋の中は服が散乱して大変なことになっている。けれど片付けている時間はない。
 申し訳なく思いながら、柚子付きの使用人である雪乃に後を任せて、朝食の席に着いた。

 玲夜はすでに来ていたが、柚子が来るのを待って食べずにいてくれたようだ。


「おはよう、玲夜!」

「ああ、おはよう」


 時間もないので慌ててご飯を食べ始める。


「柚子、喉に詰まらせるぞ。ゆっくり食べろ」

「だって遅刻しちゃうから」


 前日から準備をしていればいい話なのだが、これから始まる講義のことを考えたり、玲夜とまったりとした時間を過ごしていると、忘れてしまうのだ。


「行ってきます!」

「ああ、子鬼を忘れるな」

「はーい。子鬼ちゃん、行くよー」

「あーい」

「あいあい」


 子鬼と鞄を持って急いで車に乗り込み、大学へと向かった。
 入学して間もない一年生はまだ講義は行っていない。最初は学部ごとに説明を聞いて、どの講義を受けるかを各々決めなければならないのだ。

 説明を受けるため透子と一緒に入った教室内は、ガラガラだった。というか誰もいない。
 だがそれも仕方がないことだった。柚子の入った花嫁学部の新入生はたったの三人。わざわざ教室を使う必要があるのかと思うほど人数が少ないのだ。
 たとえ上級生を合わせても、花嫁学部の者は両手の指で足りるほどの人数しかいないらしい。

 貸し切り状態の教室の椅子に座り講師が入ってくるのを待っていると、もう一人の花嫁学部の学生と思われる女の子が入ってきた。

 柚子はその女の子を見て、透子にひそひそと話しかける。


「ねえ、あの子が花嫁? 人間……だよね、あやかしじゃなくて?」

「ここに来ているんだから花嫁でしょう?」


 柚子と透子が確信を持てなかったのは、彼女の容姿にあった。
 ハニーブラウンの肩までの長さのゆるふわな髪に、庇護欲を誘う垂れ目気味で幼げな顔。
 さすがにあやかしの中でも最上級である桜子とは比べものにならないが、一見するとあやかしなのではと思ってしまうほど彼女の容姿は整っていた。


「か、かわいい」

「話しかけてみる?」


 柚子たちから少し離れた場所に座った彼女と話すべく立ち上がろうとしたが、タイミングよく講師が入ってきたので断念する。
 たった三人だけの説明会は淡々と行われた。

 説明が終わり、受講する講義を提出するようにと言って出ていった講師を見送ると、素早く透子が動いた。

 真っ直ぐもうひとりの花嫁に突撃する透子を、柚子は慌てて追いかける。