発端となった鮫島はというと
ばつが悪いのかイトカとは
一切、口を利かなくなった。

もともと口数の少ない彼女だが
挨拶どころか顔も見なくなったのは
よっぽど気に入らないから。
しかし社長の前でそんな態度も取れないため
彼女なりの些細な抵抗。

イトカ自身も
『喋らなければ喋らないで揉めなくていいや』と
さほど気にしてもいなかった。


そんな事もありながら
シバ社長の下で働くようになってから
ようやく1か月が経とうとしていた―――


「我ながら掃除のセンスを感じる」


磨き終わった社長室の壁一面の窓ガラスを見つめ
『うんうん、上出来』と自画自賛していると。


「おい、まだ次の仕事が残ってる」


鬼教官のようなスパルタ社長の指令が下る。


「はいはい。
 次はどんなご用件でしょうか」

「”はい”は一回だ。
 いくつかの店舗から試案の返答を頼まれた。
 お前も手伝え」


そう言って各店舗から預かった大量の資料を
デスクに広げ始めた。


「いやそれはさすがに社長の仕事じゃ…」

「文句は受け付けない」


あいかわらず扱いは雑だが
軽く流す気持ちで引き受けてはいるが…。