破片をとりあえず片隅に寄せると、ミクはレジの下から救急セットを持ってきて二人組の席へ戻った。
「破片が入ったりしてないですか? あちらの水道で、傷口を洗ってきてください」
 女性が言われたとおりにすると、救急セットの中身で簡単に処置をした。
「すこしの間、指を心臓より高くあげておくといいと思います」
 そういって、皿を片づける作業に戻った。

「手当て、慣れてらっしゃるんですね。血も止まったみたいです。ありがとうございました」
「いえ。……お店ではよくあることですから」

 女性二人が礼を言って店を出て、ランチタイムの客が減りはじめるまで、ミクの心臓はときおり思いだしたように《《ばくばく》》と存在を主張していた。


「さっきは大丈夫だったか?」
 最後の客が出て、店じまいに入ったところで、兄が声をかけてきた。「揚げ物してたんで、離れられなかったんだけど」
「うん、軽い切り傷だったし……」
「そうか。まあな」
 兄はなにか言いたりなさそうな顔をしていたが、結局、やめたようだった。濡れた手をエプロンで拭う。

「じゃ、片づけ頼めるか? おまえの王子様を引き取りに行ってくるから」
「本当?」ミクはぱっと顔を輝かせた。「ありがとう!」