「あと、今日の花火大会、てぃあらがこっちで観たいっつってたけど、夕方待ち合わせでいいか?」
半熟の目玉焼きを崩して、そこに薄いフライドブレッドを浸しながら玲央が確認した。兄妹の目は冷蔵庫に貼ってある花火大会の案内チラシに向けられている。
「うん」
妹の提案は、ミクのLINEにも届いていた。というより、昨晩ミクが、彼女のマスコットキャラであるところの『ポロロ』にコンタクトを取ったので、そこからてぃあらに連絡が行ったのだろうと思われた。
夕方、妹に会うときに、ミクはクロのことを話すつもりでいる。それは昨晩彼が申し出たことを、彼女なりに考えての結論だった。
あんなに非常識な形で出会ったのに、クロは驚くほど温厚で、ミクに忠実だ。
けれど本人が言うとおりの危険な魔獣だった場合、たしかに一般人であるミクにはどうしようもない。責任を取っても、守ってもやれないのだ。
おまけに、いまの自分に、普通でないペットの事情を抱えて生活できるのかという懸念も残っていた。
魔法少女である妹には、魔獣をハントするための武器や能力があるという。だから、彼女のもとに行くというクロの決意は止められない、と思った。
姉としてはてぃあらの善良さに信頼を置いているし、ポロロも現時点で敵対していない魔獣に危害を加えることはしないと明言してくれた。
だから安心してこの超常現象から手を引けるはずなのだが、どうにも、ミクの心は晴れないでいる。