サラダの盛りつけは、兄がやったものをスマホに撮ってある。それを見ながら、おいしそうに、きれいに見えるように野菜を置いていく。日替わりサラダは季節と仕入先で内容が変わる人気メニューだった。ホウレンソウにルッコラ、グリルしたタマネギ、オクラに塩もみしたゴーヤ……。薄く削ったパルメザンチーズに、ドレッシングは注文が来てから、と忘れないように頭にメモする。
「だいたいでいいんだぞ、命がかかわるわけじゃなし」と言われたこともあるが、なかなか、前の仕事の確認グセが抜けないのかもしれない。
(やっぱり、もう少し手早くできるようにならないとな)
開店準備に、めまぐるしく時間が過ぎていく。
料理の指示に混じって、譲渡会でのやりとりについての確認が入った。年齢、犬種、サイズ、性格、そのほかの特筆すべき項目……。そのやりとりから、どうやら兄が本気であるらしいことが伝わってきて、ミクはにわかにどきどきしはじめた。
「よっし、犬、飼うぞ!」そんな妹を見越したように、玲央が威勢よく言った。
鶏肉が揚がる、じゅわじゅわした音がしている。この唐揚げに特製のタルタルソースをかけたものが今日のランチのメインらしい。衣にもソースにも新鮮な卵をたっぷり使ったチキン南蛮は、意外にも女性受けがいいのだと言っていた。
「ほ、本当に?」ソースをかき混ぜる手が止まった。
「おまえがなにか気に入るなんて、よっぽどだろ。いいよ。そいつにしよう」
思い立った兄の行動は早い。彼女のスマホから、譲渡会を主催しているNPO団体に連絡を取り、さっそくアポを取ってしまった。
「手続き関係もあるし、車がいるだろうから、俺が行ったほうがいいな。三時に店を閉めたら、そいつを迎えに行って来てやるよ」
入り口のドアの上にある時計を見ると、九時五十分を指していた。あと十分で、カフェの開店時間だ。