「あの……ポロロさん、クロと知りあいなんですか?」ミクが尋ねる。さっきの言葉からは、少なくともポロロのほうは以前からクロを知っているように聞こえる。

 海老とそら豆のかき揚げに手を伸ばしながら、ポロロはわずかにためらったように見えた。箸の扱いがうまいので、なんだか来日回数の多い海外セレブみたいに見える。やっぱり、『ジェシカ』のほうが似合うかも。

「知りあいというか、まあ……こいつは、このあたりではけっこう名の知れた魔獣だしね」
 その答えには、どことなく含みがあるような気がした。
「なんだって、こんなでっかい犬男を野放しにしてたんだ? それとも、保健所にでも捕まってたのか?」
「こっちでも探していたのよ。まさか、てぃあらの姉のところで飼われてるなんて。……灯台下暗しとはこのことね」

 兄とポロロの会話を聞きながら、ミクは譲渡会での様子を思い返していた。クロを引き取った当日、行方不明になったことを知らせるために主催団体に電話したが、つながらなかった。その時は夜でもありしかたないと思ったものの、その後かけ直してみてもやはり、つながらないままだった。あの場にいた、ほかの犬たちはどうなったのだろうか。クロはいったい、どうしてあそこにいたのだろう。
 この二日間、人型のほうのクロとは、まだほとんどまともにしゃべったことがない。しかし、とにかく意思疎通ができるのだから、これまでの経緯を彼の口から聞いたほうがいいのに違いない。……

「ともあれ、てぃあらじゃなくて、私のほうに連絡してくれてよかったわ」
「……どうしてですか?」ミクは尋ねた。
「あなたねぇ、妹の活動にもうちょっと関心を持ちなさいよ。あの子がなにやってるのか、知らないの?」
 そういわれると、離れて暮らしているとはいえ、姉として肩身が狭い。ミクはかき揚げをはさむ箸を止めて小さく答えた。
「あの……魔法少女ってことくらいしか……」
 ポロロは「やれやれ」というふうに嘆息した。
「魔法少女は職業名でしょうが。なにをやってるかが大事でしょ。いいこと? 人類の愛と平和を守る。悪の組織と戦う。王子さまを救う。プリンセス修行。魔法少女の活動目的は数あれど、〈シャイニング・ティアラ〉の目的はただ一つ」
「名前ひっでぇな」兄がよけいなタイミングでよけいな口をはさんだ。
 ポロロはそれを無視した。
 そしてくり返す。
「目的は一つ。魔獣を倒すこと。――あなたの妹はね、魔法を使ってシェイプシフターを狩る、魔獣ハンターなのよ」

 さくっ。ミクの箸からかき揚げをかじり取って、人間の姿をした魔獣は、もぐもぐと咀嚼(そしゃく)した。