結局、その日は四人で食卓を囲むことになった。女優顔の謎の白人女性、あるいは魔法少女のマスコットは、さも当然というふうにテーブルに陣取っている。
 彼女の名前については、本人は『ジェシカ』と呼ばれたがっていたが、妹はたしか『ポロロ』と呼んでいたので、マスコットらしく、そのまま呼ぶことにした。

「それで、この犬は結局、なんなんだ?」
 そうめんとかき揚げを運んできた玲央(れお)は、腰を落ちつけて食べはじめると、そう訊いた。
 ポロロは難なく箸を使いこなして、ひとしきりそうめんを堪能(たんのう)してから答えた。
「ざっくり言うと、『魔獣』ね」
「『魔獣』?」
 玲央が聞き返し、ポロロがうなずく。
「難しい定義は脇においておくけど、超自然的な力を持った人間以外の種族のなかで、とくに人から獣へ姿を変える生物だ、と考えて」
「狼男みたいなものか?」と、玲央。
「そうとらえてもらって、差し支えないわ。まぁこの駄犬をごらんのとおり、オオカミとも限らないから、『シェイプシフター』と言うほうが正確かしらね」
「昼間は犬の姿で、夕方から夜にかけて人間の姿になる?」
「うーん、時間帯は必ずしも関係ないはずだけど……うまく力を制御できない魔獣は、昼の間は獣の姿で過ごすことが多い、とは言うわね」
 ポロロは箸でクロを指さした。「ちょっと、人が真面目に解説してるのに、そこ、イチャイチャするのはやめなさいよ」
「えっ」
 ミクはきょとんとした。ちょうどクロの隣に座って、そうめんに苦労する男に食べ方を教えてやっていたのだった。くるくると麺を巻きとっては、つゆに浸け、口に入れてやる。ミクとしては、患者に食事の介助をするような感覚だったが、はたからは仲睦まじく見えることに気づかなかった。
「箸がうまく使えないんだ」
 クロが主張した。「ミクに食べさせてもらわないと、食べられない」
「本当でしょうね?」ポロロは舌打ちし、疑わしい目線を送った。ミクに向きなおり、「犬は嘘つかないっていうけど、こいつ、都合の悪いことはけっこうごまかすのよ」と言う。