「……。……? 犬?」
「あーっ、フランキーさん、日本語が不自由なんだよねっ。やだなぁ、あはは……」
「えっ、さっきすごく流暢にしゃべってなかった……?」
 新は冷静につっこんだ。
 クロはそれを見下ろす形で、まじめな顔で首を横に振った。
「フランキーは吉田さんのところの犬で、俺は――もごっ」
「さっ、次はスウェット見に行こうね! ジーンズより着心地いいと思うから! ねっ」
 ミクはせいいっぱい背伸びをして自分の犬の口をふさいだ。

 クロを前に急によそよそしくなった新は、「じゃ、もう行くから」と決まりきったあいさつを口にして、彼女とともにフロアに戻っていった。ミクはといえば、愛犬のびっくり発言を取りつくろっているうちに、重苦しい気分が霧散してしまっていた。それがいいことなのかどうか、よくわからない。
 ともあれ、シャツ三枚、ジーンズにスウェットの上下、サックスブルーのオックスフォードシャツ一枚、靴下とパンツがそれぞれ五枚ずつという大量の布ものが、ミクの支払いののち、クロの手に渡ったのだった。