日が沈みかけるころ、ミクは人型になったクロを連れて、駅ビルのなかに入っていった。きょろきょろともの珍しそうに歩く身長190cmの大男は周囲の目を引いたが、ヘタな着つけの浴衣姿で観光客のように見えるのでは、とミクは期待していた。
その期待が成功しているかわからない。ちなみに、浴衣は『インバウンド需要』という言葉が大好きな、町内のスーパー銭湯の社長に頼んで外国人客用のものを借りてきた。
二人は3フロアを占める大型ファストファッション店に入った。ここには大きなサイズがあると、ネットで調べたのだ。
入るのに気後れするような高級店ではないが、外出そのものが久しぶりだったミクにとっては、意を決しての大きな一歩だった。
もちろん、おかしな浴衣姿の大男を衆目にさらしたくないという気持ちがそれを後押ししたのは間違いない。
とりあえず大きなサイズを、一番大きなサイズを、と男性用フロアをまわっていく。
数枚しか服を入れていないのに、大きさのせいで店内用のカゴがすぐにいっぱいになってしまった。
「知らなかった。男の人の服って、かさばる……」
ぼやいていると、クロがすっと腕を出してカゴを持ってくれた。……ジェントルだ。
ミクは数枚の服を選ぶと、とりあえずサイズを確認するべく、試着室が並ぶ一画へ向かった。大型店なので、試着室も通路をはさんで十ほどが並び、その前にとりどりの靴が揃えられている。
カーテンの前に立って、クロが着替えるのをそわそわと待った。
靴を出してくれている店員に向かって、ミクは言いわけめいたことを話しつづけていた。
「ゆ、浴衣の着つけ体験をしてるあいだに、服と荷物を盗まれちゃったらしくて」
「そうなんですか、災難ですねー」
「間抜けですよね、あはは、はは……」
「……三久?」
店員が去るタイミングで、ふと後ろから声をかけられて、ミクは振りかえった。
「……新くん」