「そうだけど、そうなんだけど」
 ミクは、彼女の取りわけてやった焼き鳥を喜んで食べている男を、じっと見た。
 フォークの使い方は幼稚園児、食欲は高校生男児、外見はアイスホッケーかアメフト選手、というまことに珍妙な生き物ではあったが、彼女の指示に諾々(だくだく)と従っているのが犬の従順さを思わせる。

「うちの実家は、そういう《《怪異》》にぜんぜん無縁ってわけでもないでしょ? その関係と思えば……」
 ミクが言いつのると、玲央は缶ビールを手に考えこむ様子をみせた。

「ね? 食べかたも犬っぽい」
 ミクの判断基準は、同じ町内で飼われているラブラドールレトリバーのオス、フランキーである。出てきたものを十秒くらいでがつがつと平らげる男の食べ方は、そのフランキーそっくりだった。

「あるいは、単に箸の使い方がわからない、極限まで飢えた留学生」玲央が付けくわえた。「イケメンの露出狂で、やや貧相な女性が好みのタイプ」
 妹に向かって『やや貧相』とはどういうことか、とミクは問いただしたくなった。しかし事実として胸のあたりがあまり豊かでない自覚はあるので、受け流すことにした。
 玲央(れお)は焼き鳥だけでは物足りなさそうな男のために、他のメニューも出してやった。刻みザーサイを載せた冷ややっこ。トマト。ホウレンソウと豚肉の唐揚げが入ったサラダ。ランチの残りの鶏南蛮。そして白米、山ほどの白米。

 その見事な食べっぷりを見てどう思ったのか、疑いが晴れたわけではないのだろうが、「……まあいいだろう」と嘆息した。
「大型犬が大男になり得るようなファンタジーについては、《《あの子》》にも聞いてみよう。それまで数日は、ここに置いてやってもいい」
「ほんとに!?」ミクはぱっと顔を輝かせた。「玲央、ありがとう」