飼うはずだった予定の大型犬が行方不明。そして、自宅には半裸の男。どちらも、かなりせっぱつまった状況だ。
 買い出しに出た兄が早めに帰ってきたのは、不幸中の幸いだった。そうでなければ、ミクは警察と保健所のどちらに先に電話したものか、ずっと悩むはめになっただろう。

「保健所だな」
 玲央(れお)は、いい匂いをさせたビニール袋をカウンターテーブルに置き、スマホを操作しながら即決した。
「あれだけの大型犬がリードもなしに野放しとなりゃ、うちはもちろん、ヘタすれば譲渡(じょうと)会のほうも責任問題になっちまう」
 そして、言葉どおりさっさと保健所の夜間受付に連絡してしまった。譲渡会のほうは、夜間でつながらなかったようだった。

 半裸の男は、『保健所』という言葉に過剰に反応し、ミクの後ろに隠れんばかりに縮こまっている。
「んで、警察だが……」
 玲央は男をちらりと観察した。デカいから威圧感はあるが、全裸だけに武器はもっていない。そして、ぐぅぐぅと腹を鳴らしている。

「まあ、とりあえず、食うか」と、玲央は言った。