不審な男の年齢は、自分や兄と同じくらい――つまり、二十歳から二十五歳のあたりに見えた。センサー灯の下では外国人のように見えたが、明るいキッチンで見ると、彫りの深い日本人でも通用しなくはない顔だ。なにより、日本語をしゃべっているわけだし。
最初に思ったとおり身長はかなり高く、回廊との間の襖を通るときに桟をくぐるようにして入ってきたところを見ると、190cmは超えているだろう。
短く刈った黒髪に、はっとするほど整った顔だち。そしてなにより、マホガニー色の目。
――あの素敵な犬と同じ目なんて。
なんという、皮肉な偶然なのだろうか。
それでも、ミケが割って入ってくれたことで少し落ち着きをとり戻すことができたようだ。その点はあの悪魔的な猫に感謝しなければならない。スマホはまだ握りしめたまま、とりあえず男をスツールに座らせる。これで、威圧感が一割くらいは減った。もし彼女を襲おうとしても、椅子から立ちあがる分動作が一つ増えるわけだし、ミクのほうはキッチンにいるから、ナイフを振りまわせば多少はしのげるかもしれないし、そうやって時間を稼いでいるあいだに兄が帰ってくる期待もできる。
深呼吸。深呼吸だ。
落ちついて行動すれば、絶対に対処できるはず。
ミクはできるだけ冷静に聞こえるような声色を作った。
「警察に電話しますから、そこで誰かに迎えに来てもらってください。ご飯はそこで食べて」
「警察……って、どうして?」
「全裸で女性に抱きついたら、ふつう、警察を呼ばれると思います」
「えっ」
男の顔に困惑がうかがえた。「そうなのか? 別にこれまで、なにも言われたことはなかったけど……」
そんなはずはない。ミクは胸中でツッコミを入れる。おそらく、これまでは裸で抱きついてもよい《《然るべき》》ときだったのだろう。長身でかなりのハンサムだし、デートの相手に不自由しそうには見えない。
もしかしたら、本当にそういった遊びの延長線上でやったことなのかもしれないと思うと、恐ろしさよりも怒りのほうが上回ってきた。どこの開放的な国の留学生か知らないが、日本はマナーと規律の国なのだ。遊ぶにしても、それなりのルールというものがある。
「お腹が空いた……」怒りに満ちた彼女と対照的に、男はくすんと鼻を鳴らした。
最初に思ったとおり身長はかなり高く、回廊との間の襖を通るときに桟をくぐるようにして入ってきたところを見ると、190cmは超えているだろう。
短く刈った黒髪に、はっとするほど整った顔だち。そしてなにより、マホガニー色の目。
――あの素敵な犬と同じ目なんて。
なんという、皮肉な偶然なのだろうか。
それでも、ミケが割って入ってくれたことで少し落ち着きをとり戻すことができたようだ。その点はあの悪魔的な猫に感謝しなければならない。スマホはまだ握りしめたまま、とりあえず男をスツールに座らせる。これで、威圧感が一割くらいは減った。もし彼女を襲おうとしても、椅子から立ちあがる分動作が一つ増えるわけだし、ミクのほうはキッチンにいるから、ナイフを振りまわせば多少はしのげるかもしれないし、そうやって時間を稼いでいるあいだに兄が帰ってくる期待もできる。
深呼吸。深呼吸だ。
落ちついて行動すれば、絶対に対処できるはず。
ミクはできるだけ冷静に聞こえるような声色を作った。
「警察に電話しますから、そこで誰かに迎えに来てもらってください。ご飯はそこで食べて」
「警察……って、どうして?」
「全裸で女性に抱きついたら、ふつう、警察を呼ばれると思います」
「えっ」
男の顔に困惑がうかがえた。「そうなのか? 別にこれまで、なにも言われたことはなかったけど……」
そんなはずはない。ミクは胸中でツッコミを入れる。おそらく、これまでは裸で抱きついてもよい《《然るべき》》ときだったのだろう。長身でかなりのハンサムだし、デートの相手に不自由しそうには見えない。
もしかしたら、本当にそういった遊びの延長線上でやったことなのかもしれないと思うと、恐ろしさよりも怒りのほうが上回ってきた。どこの開放的な国の留学生か知らないが、日本はマナーと規律の国なのだ。遊ぶにしても、それなりのルールというものがある。
「お腹が空いた……」怒りに満ちた彼女と対照的に、男はくすんと鼻を鳴らした。