(た、助けて)

 見知らぬ、大柄な、全裸の男にぎゅうぎゅうに抱きしめられている。
 スマホは手の中にあるが、この体勢では助けを呼ぶことはできそうにない。
 恐ろしいまでの極限の緊張状態を破ったのは、意外なものの鳴き声だった。

「ナーォォオオオ」
 不機嫌きわまりない、という猫の鳴き声に、ミクはびくっと身体を震わせた。男から離れようとすると、意外なほどあっさりと身体を離される。持ち歩き式のストーブかと思うほどに巨大な熱量のある身体が離れて、一瞬、夏の夜らしからぬひやりとした感覚が襲った。

「オ゛オ゛ーオオォゥ」
 その鳴き声は、あたかも、「道ふさいでんじゃねぇよ、オラ」とでも凄んでいるかのようだ。男はきょとんとして、自分の足もとにいる毛玉を見下ろした。
 正確には、ミクに餌を要求しに来た、猫のミケを。
 そして、彼女もつられて足もとを見下ろしてしまい、その途中にある、その、アレ的なものも見てしまった。
「うわぁ」
 見た。見てしまった。お父さんのでさえ見たことがないのに。

「わああああ」
 ようやく悲鳴っぽい声が出た。
 重ねるようにして、男の腹が「ぐうぅ」と鳴った。