(裸足?)

 足元を見ると、男性の大きな足が見えた。足幅は狭くて細長く、きれいな形をしている。引き締まったふくらはぎがその上に続いている。
「ひっ」
 視線はそこでストップし、思わず声が出た。ふくらはぎが見えるということは、ズボンを履いていないということで、それはつまり、もしかしたら、全裸ということだろう。
(へ、変態さんだ)
 この男は、春によく出没するという、露出狂というやつなのだろうか。いまはもう夏だけど――

「怖がらないで」
 おびえるミクに、男は繰り返した。
 落ち着いた声は、橋から飛び降りようとしている自殺志願者に、警官が声をかけるような様子を思わせた。だが、警官に用があるのはどう考えても目の前の男のほうだろう。

「よく見て」
(いやー!!)
 よく見たら、見てはいけないものを見てしまう。無意識のうちに、いやいやをするように首を振って後ずさっていた。
「あ」
「危ない」
 後頭部が、なにか固いものに当たった。男の姿勢から、彼の手の甲だということがわかった。そして、柱に頭をぶつけそうになったのを、自分の手でかばってくれたのだということも。
「な……」
(なにが起きているの?)

「よく見て……」男はまた繰り返した。
 ついに、頭の許容量を超えたのかもしれない。ミクは、顔をあげて男の顔を見てしまった。柱に近づいたことで、来客用の人感センサーがぱっと灯った。急に明るくなった視界に、どちらもはっと顔をこわばらせた。
 照らされた顔の造作よりも、その目に引き寄せられてしまった。そしてなぜか、男の方も自分と同じ表情を浮かべている気がした。

 好きになってはいけない目だった。運命の相手だと思った。


「やっと会えた。ずっと探していた気がする」
 マホガニー色の目をした男は、そう言って彼女を抱きしめた。

 おそらく、全裸のまま。