でも、博物館で見たことがあるレプリカとは何かが違う。

色は鮮やかだがクリアな色ではない。赤というよりは橙色のように見えるし、布地の光沢や質感もなんとなく自分が知る着物とは違う。

これはもしかして、平安時代の着物なのだろうか。
考古学者の家だ。保存状態のいい歴史的価値ある物があっても不思議じゃないと自分に言い聞かせたが、言い知れぬ疑問が胸の奥から湧きおこった。

――何かが変だ。
どういうことなのだろうと不安になった時、

『この着物は私が着ていたものなんだ』
暁はそう言って、振り返った私に向かってニッと笑って言ったのである。

『実はあたしね、平安時代から来たの』

『え?』

『清少納言って知ってるでしょ? それがあたし。陰陽師に頼んでこの世界に来たんだよ』


いまカウンターに両肘をつき、手のひらに顎を乗せてボーっとしているこの暁が、実は清少納言であると言っても誰が信じるだろう。
私以外にいないと思う。

もちろん私もその事実を受け入れるまでに時間がかかった。
でもいまは信じている。

彼女の養父母が見せてくれた千年昔から伝わる鏡。
明らかに昔の物なのになぜか新しい十二単。この時代にやってきて切り落としたという暁の長い、長い髪。
そして、本物の清水暁。

私の親友、もうひとりの清水暁は正真正銘の清少納言なのだ。