「部屋って、結菜と一輝が住んでるマンションに?」
「うん、話したいことがあるから」
「えっ、なになに結菜、話したいことって?」
私が彩月に話したいことがあると言ったら、彩月は興味津々になっていた。
「うん、そのときに話すね」
「えっ、なになに重大発表?」
彩月は身を乗り出すように訊いた。
「そんなに構えなくても大丈夫だよ」
ただでさえ彩月に一輝くんとのことを報告するのに緊張してしまうのに、あんまり彩月に構えられると、もっと緊張してしまうから。
「そうなの?」
「うん、気楽な気持ちで聞いてもらえばいいから」
というか、ぜひそうして、彩月。
「そうなんだ。じゃあ、楽しみにしておこう」
そう言った彩月は、わくわくしている様子だった。
正直なところ、あまり楽しみにされても困る。
なので。
「別に楽しみにしなくていいから」
私は彩月にそう言った。
「そうなの~? でも結菜から改めて話したいことがあると言われたら楽しみにもなるよ」
まだわくわくしている様子の彩月。
「ほんとにそんな楽しみにしなくてもいいから」
私は念を押すように、もう一度、彩月に同じことを言った。
「ふ~ん」
彩月はそう言って、再び弁当を食べ始めた。
私もそのまま、また弁当を食べ始めた。
弁当を食べ終えてから、彩月がいつ、私と一輝くんが住んでいるマンションに来られそうか話をした。
その結果、今週の土曜日に来てくれることが決まった。
土曜日。
私と一輝くんのことを彩月に報告する日がきた。
朝ごはんを食べ終えて、昼に彩月が来るのに備える。
「ねぇ、結菜ちゃん。僕、その場にいなくちゃいけない? 結菜ちゃん一人で姉ちゃんに話しておいてくれればいいよ」
一輝くんは、私と一輝くんのことを彩月に報告する場に一緒に参加することを少し面倒くさそうにしている。
「ダメ。ちゃんと一輝くんも一緒にいて」
私はビシッと一輝くんに言ったつもりだったのだけど……。
「……じゃあ……」
……?
「じゃあ?」
「夜、一緒にお風呂に入ろ」
……‼
「えっ⁉」
なっ……なななっ、なんとっ⁉
「ねぇ、いいでしょ、結菜ちゃん。そうしたら僕、姉ちゃんに報告する場に一緒にいるから」
「なっ……何言ってるのっ⁉ 一輝くんっ‼ それとこれとは話が別でしょっ‼」
ほんとに一輝くんったら、とんでもないことを言うんだから‼
「僕にとっては全然別じゃないよ。ねぇ、結菜ちゃん」
一輝くんは私の服を引っ張りながら甘えた口調で言ってきた。
「ちょっと、一輝くん‼ 服が伸びちゃう‼」
私は、私の服を引っ張る一輝くんの手を私の服から放そうとするのだけど……。
「結菜ちゃんが僕と一緒にお風呂に入るって言ってくれたらやめてあげる」
な……っ‼ なんという駆け引き……っ‼
一輝くんはそう言って、私の服から手を放してくれない。
私は一輝くんの駆け引きになかなか言葉を返すことができなかった。
こういうときは、一体どういう言葉で返せばいいのだろう。
私は困ってしまった。
すると……。
「……じゃあ……」
え……?
「しょうがないなぁ」
い……一輝くん……っ?
こ……今度は何……⁉
「これで許してあげる」
「……⁉」
許すって……⁉
私は、意味がわからなくて一輝くんの顔をじっと見つめていると、
「きゃっ……‼」
一輝くんは私の腕を掴んで、私のことを一気に一輝くんの方に引き寄せた。
そして私は一輝くんにぎゅっと抱きしめられた。
「一輝くん……っ⁉」
あまりにも急過ぎて、私の頭の中はプチパニック状態になった。