「ところで貴方はいまどのような絵を描いているのですか?」

「僕のことは、セントと」

いつまでも名を呼ばれぬままでは寂しいと思い、そう呼ぶように彼に言えば、彼は一度目を丸くし微笑んで自分もハンスと呼んで欲しいと言ってきた。顔に熱を感じて僕はややうつむき加減で頷いた。

「いまは木の絵を描いているところだ。因みにテーマは──」

「"生と死"……ですか?」

「っ……⁉︎」

先に答えを出されてしまい、僕は続く言葉を呑んでハンスを見た。先ほどまで楽しそうに笑顔を絶やさない彼とは打って変わって真剣な表情に言葉が詰まる。しかも、その答えは僕しか知り得ない事実だ。

「何故、それを──」


──知っている?


「わたしが、セントのファンだからですよ」

はっきりとそう言い切ったハンスに、そうかと返事をする他ない。不思議なことに、本当にそうなのだろうと胸にすとんと違和感なく落ちた。

「死ぬつもりなのですか? セント」

「ゴッホォ────⁉︎」

口に含んでいた茶を吹いてしまい、むせて止まらなくなった咳を落ち着けようと胸を叩いた。

そう。僕は、その木の絵の作品を最後にこの世を去るつもりで描いていた。

描いているとき、これは人が生を受け死に至るまでの人生を表しているようだと僕は思ったんだ。
木の根の絡み合いが人が歩む上での人生の苦悩を表しており、人が歩む道は必ずしも平坦ではなく曲がりくねっていると言っているようだった。それはまるで、僕の今までの人生を省みでいるようだった。そして、木を切断したときのことを想像すれば、そこから新たに芽吹き空へと枝を伸ばし、太くなる様子から"生"を。切断され風化し土に帰る様から"死"を思い浮かべたんだ。

「な、なななぜ?」


──そう考えた?


「わたしはセントのファンだから、心配しているのですよ」

消え入るような弱々しい声でそう言ったハンスの顔は、今にも泣きそうな顔をしていた。