頬を水が伝う。手で拭っても、拭っても溢れてくる。
紙は水浸しになってしまった。文字も滲んでしまう。なのに、止まらない。
 止められない自分の水を一生懸命に拭いながら一人部屋の中で想う。
(人生って、運なんだよね。まさに、運否天賦(うんぷてんぷ))
自分について、見つめ直せたあの騒がしい日。今でも鮮明に憶えている。
 騒がしい中、なぜか書こうとして、何時間もかかった。それなのに、あんな短文だらけの文章で、疑問符もたくさん。
 部屋を見渡す。陽の光が射しこみ、部屋が明るくなった。それだけで、がらんとしなくなった気がする。そんな気がする。

 「よし」

 服を着替えて、靴を履いて、近所の駄菓子屋に向かった。
(からす)は一羽たりとも居なかった。