おっさんは、領都で建築の依頼は出さなかった。
出す必要が無かった。
黄龍は、眷属を持っていないが、他の四龍は、それぞれが眷属を持っていた。
青龍は、ドワーフ族を眷属として使役することができる。四龍のまとめ役も、青龍の役割だ。もう一つの役割を持つ、龍族の中で役割が多いのが青龍だ。
紅龍は、サラマンダー族を眷属として使役することができる。
白龍は、ウィンディーネ族を眷属として使役することができる。
黒龍は、エルフ族を眷属として使役することができる。
黄龍を除く、四龍が、それぞれの眷属を召喚して、おっさんとカリンの指示で、住処の建築を行った。
バステトが存在している場所で広範囲な結界が張られた場所なら、眷属も安心して過ごせるという判断をした。
それぞれの種族に適した場所での集落を作って、交流を行うことも確認された。
神殿が集落の中心になる。
おっさんとカリンの住居が集落の中心になることも決定した。
四龍に請われて、おっさんがそれぞれの種族の長に名付けを行った。
聖獣の主であるおっさんから名を貰うのは種族として名誉な事だと判断された。
ドワーフには、ゲラルト
サラマンダーには、オイゲン
ウィンディーネには、アンレーネ
エルフには、エミリーエ
おっさんの名付けで、それぞれが進化を始めた。
上位種である。エルダー・ドワーフ。エルダー・サラマンダー。エルダー・ウィンディーネ。エルダー・エルフ。に、進化が行われた。
四龍が召喚も、それぞれの種族が100名に鳴るように調整された。
「黄龍様。聞きたい事があるのですが?」
『どうした?』
「四龍様が召喚した種族ですが、エルフ種やドワーフ種は、この世界にも居ますが、同一の種族なのですか?」
『厳密な意味では違う。この世界に居るエルフやドワーフは、種で言えば、人からの変異だ。森に特化したのが、エルフで、山や洞窟に特化したのがドワーフだ。四龍が召喚した者たちは、妖精種からの進化だ』
「妖精種?」
『そうだ。聖獣の眷属と考えればよい』
「よくわかりませんが、違うことだけはわかりました。ありがとうございます」
『うむ。別の種族だと思えばよい』
実際に、おっさんが”長”以外を鑑定で見てみると、”ハイ”と種族の前についている。
おっさんは、自分たちだけの逃げ場所を考えていたが、立派な集落が出来てしまっている。
頭を抱えたい状況になってきている。
「まーさん!まーさん!」
「どうしました?」
おっさんが頭を抱える原因の一つが、カリンだ。
「バステトさんと、周辺を巡ってきていい?」
「魔物に注意してくださいね」
「うん!行ってきます!」
カリンが、集落の周りを探索しているのは、最初は食べ物を探しながら、鍛錬の為だった。
黄龍が言っていた、聖獣を探し出そうとしているのだ。
バステトが、白虎であるのは確定している。
残りの2柱も近くに居るはずだと、探索を行い始めた。
おっさんは、神殿の周りの環境を整えていた。
自分が持つ情報を、ドワーフやサラマンダーやウィンディーネやエルフに渡して、神殿の周りの開拓を行っている。
「お!まーさん。丁度良かった」
「ん?」
「先日、聞いた蒸留の仕組みだが、オイゲンと協力して作ってみたのだが見てもらえないか?」
「本当に、ゲラルトたちは”酒”の事には熱心だな」
「当然だ。それで?」
「いいよ。他の物も頼むよ」
「解っている。美味い酒があれば、集落の奴らも率先して働く。その為にも、蒸留は必須だ」
「はい。はい。でも、蒸留が出来ても、すぐに酒が美味くなるわけじゃないからな」
「ほら、それは、おぬしのスキルで時間を進めて」
「全部は無理だぞ?他にもやることがあるからな」
「解っている。エミリーエが森の恵みを集めている。それらを使った酒を作っている。それらを蒸留して、おぬしに時間を進めて貰えば、どんな酒になるのかわかる。その中から、美味い酒だけを残す計画だ」
計画的なのか無計画なのか解らない計画を聞かされて、ため息を吐きながら、おっさんはゲラルトの話を承諾して、蒸留器を確認した。
問題が無かったので、街で売っているワインで蒸留を試してみた。
街への買い物は、存在は珍しいが、領都に居ても不自然ではない。エルフ族とドワーフ族が担当している。二つの種族が仲良くやってくるのは、レア中のレアなのだが・・・。ドワーフ族だけで買出しに行かせると、持たせた硬貨が全部”酒”に変わって帰ってくる。エルフ族は、”酒”だけを買って帰ってくることはないが、バランスが決定的に野菜や果物に偏っている。最初は、カリンが一緒に行ったのだが、カリンが聖獣の探索を行い始めてから、領都には出かけていない。
最終的には、おっさんがメモを作成して、ドーリスかロッセルに渡して揃えてもらうことになった。
ダミー拠点の構築も始まった。
四龍の協力とバステトのスキルを使って、神殿の2階層に転移する転移門が設置できた。
これで、神殿のダンジョンにアタックする連中を、神殿の拠点まで招く必要がなくなった。長いトンネルを掘ろうかと考えていたが、必要なくなった。
ダミー拠点は、おっさんとカリンが住んでいることになっている屋敷と、ダンジョンに繋がる洞窟だけを作った。
これから、この場所を訪れる可能性がある者たちの為に、水路と井戸は作った。
ウィンディーネであるアンレーネが居れば、水場を作るのに苦労はしない。水を引き込んで、池を作って、そこから水路を構築した。
種族スキルを使った力技だ。
それでも、ダミー拠点の完成が見えてきた。
屋敷には、転移門を設置して、神殿に作った拠点に移動ができるようになっている。
ダミー拠点の管理を行う人材は、まだ用意していない。
最初は、エミリーエが、エルフたちに管理を行わせようと提案してきたのだが、おっさんが保留している。
「ねぇまーさん。なんで、ダミー拠点の管理を、エミリーエにお願いしないの?」
昼から雨が降るとアンレーネが予測したので、カリンは居間でバステトと遊んでいた。
「ん?あぁ屋敷の管理か?」
「そうそう。頼めば?」
「あぁ・・・。カリン。エミリーエたちは、エルフ種で、ハイ・エルフなのは知っているよな?」
「うん。エミリーエは、エルダー種だけど・・・。他のエルフは、ハイ・エルフだね」
「それで、見目麗しいよな?」
「うん。エミリーエは、綺麗で、可愛いよね。ハイ・エルフのお姉さんもお兄さんも凄く綺麗!」
「そうだ。ダンジョンに来るのは、善良な者だけとは限らないよな?」
「え?バステトさんの結界があるよね?」
「結界は、あるけど、悪意が芽生えるような状況では、意味がない」
「え?」
「エルフは、美麗な人が多いよな?」
「あぁ・・・。解った。そうだね。ダストンの様な人がエルフを見たら、最初は問題が無くても・・・」
「そういう事だ。そして、悪いけど、君の元同級生たちや、その関係者に知られたら・・・」
「・・・。そうですね。理解ができました」
カリンが誰を想像したのか解らないが、納得したので、屋敷の管理は、ドーリスやロッセルに聞いてから決めることになった。
「まーさん。明日。少しだけ遠出してくる!」
「わかった。バステトさんと、あと、サラマンダーとエルフを何人かを連れて行けよ」
「うん!」
おっさんは、片手を上げてカリンを見送った。
そのまま、ドワーフたちの工房に足を向けた。
---
「黄龍のおじいちゃん」
『なんだ?』
「本当に、聖獣の主になるだけでいいの?」
『そうじゃな。しかしいいのか?』
「うん。もう決めたの!」
『そうか・・。バステト殿が居れば、他の聖獣殿たちも姿を現す可能性が高い』
「うん。バステトさんも、山の方に、不思議な反応があるらしいから行ってみる」
『そうか、見つかる事を期待しよう。2柱が揃っている。あの2柱だ』
龍族は、聖獣とは違うが、青龍が聖獣としての役割を持っている。
カリンは、バステトと護衛の役割を持つ者たちと一緒に神殿から山の方角に向けて足を踏み出した。