「そういうつもりで来たんだよね? いいよ、抱いても」
強気なふりをして言ったつもりなのに、声が少し上ずっている。
彼は何も言わない。
冷蔵庫が唸るような音を発している以外は、ただ沈黙が流れた。
彼の腕は下ろされたまま、私を抱き返そうとしない。
しばらくして、頭上から冷淡な声が降ってきた。
「あんた、いつもこんなことしてんの?」
「え?」
驚いて見上げると、鋭い瞳をした彼に体を引き剥がされる。
表情や声色に反して、そんなに強い力ではなかったのが意外だ。
口ごもっていると、彼が言葉を続ける。
「そうやって自分を安売りして、虚しくない?」
心がグッと冷えていく。
私が自分をどうしようと、彼にはなんの関係もない。
そんなこと言われる筋合いもない。
こんな人生経験もまだ少なさそうな、私よりずっと年下であろう彼に何が分かるというのか。
それなのに無性に恥ずかしくなって、私は彼から目を逸らした。
視線を合わせられない。
「減るもんじゃないし、あなたに関係ないでしょ」
苦しまぎれに呟くと、彼はじっと私を見据えて言った。
「本当にそうか? 自尊心は減ってくだろ」
減るものじゃない。
失うものなんてない。
そう思わないと、愛情のない他人に抱かれることができなかった。
でも、彼の言うように間違いなくすり減っていたものがあった。
見ないふりをして、精神を保っていただけだ。
私は彼を睨みつけた。
「あなたに、なにが分かるの?」
まったく怯む様子もない彼が、強く言い放つ。
「今のあんた、すげぇダサいよ」
彼の言葉が鋭利な刃のように私の心をえぐる。
カーッと頰が熱くなって、頭に血がのぼった。
たまらなく恥ずかしくて、消えてしまいたい。
そんなこと本当は痛いくらい分かっている。
自分が一番、分かっているのに、どうすることもできないでいるのだ。
何か言い返したいのに、息のできない魚みたいに唇を開いたり閉じたりすることしかできない。
見ず知らずの、私よりかなり若そうなこの子に、そんなことを言われても何も言い返せない。
自分が情けなくて、苦しかった。
だって、きっと、彼の言う通りだから。
今の私はどんな顔をしているだろう。
とてつもなくみっともなくて、惨めな顔に違いない。
見ないで。誰にも見られたくない。
涙が溢れてくるのを感じて、顔を伏せた。
彼はそれ以上なにも言わず、そっと私の左肩に手を置いた。
大きなてのひらの温もり。
……温かい。
そこから堰を切ったように涙が止まらなくなって、喉の奥から抑えられない嗚咽が漏れた。
膝が崩れてその場にしゃがみこむ。
私、何してるんだろう。
明が私を不必要と決めた時から、嘘でもいい、嘘でもいいから誰かに必要とされたかった。
独りじゃないと思いたかった。
泣いて泣いて、泣いて。
明が部屋を出て行ったあの日のように、泣き疲れて眠るまで子供みたいに声をあげて泣いた。
もう一生分の涙は流したような気でいたのに、次から次へと溢れて止まらなかった。
強気なふりをして言ったつもりなのに、声が少し上ずっている。
彼は何も言わない。
冷蔵庫が唸るような音を発している以外は、ただ沈黙が流れた。
彼の腕は下ろされたまま、私を抱き返そうとしない。
しばらくして、頭上から冷淡な声が降ってきた。
「あんた、いつもこんなことしてんの?」
「え?」
驚いて見上げると、鋭い瞳をした彼に体を引き剥がされる。
表情や声色に反して、そんなに強い力ではなかったのが意外だ。
口ごもっていると、彼が言葉を続ける。
「そうやって自分を安売りして、虚しくない?」
心がグッと冷えていく。
私が自分をどうしようと、彼にはなんの関係もない。
そんなこと言われる筋合いもない。
こんな人生経験もまだ少なさそうな、私よりずっと年下であろう彼に何が分かるというのか。
それなのに無性に恥ずかしくなって、私は彼から目を逸らした。
視線を合わせられない。
「減るもんじゃないし、あなたに関係ないでしょ」
苦しまぎれに呟くと、彼はじっと私を見据えて言った。
「本当にそうか? 自尊心は減ってくだろ」
減るものじゃない。
失うものなんてない。
そう思わないと、愛情のない他人に抱かれることができなかった。
でも、彼の言うように間違いなくすり減っていたものがあった。
見ないふりをして、精神を保っていただけだ。
私は彼を睨みつけた。
「あなたに、なにが分かるの?」
まったく怯む様子もない彼が、強く言い放つ。
「今のあんた、すげぇダサいよ」
彼の言葉が鋭利な刃のように私の心をえぐる。
カーッと頰が熱くなって、頭に血がのぼった。
たまらなく恥ずかしくて、消えてしまいたい。
そんなこと本当は痛いくらい分かっている。
自分が一番、分かっているのに、どうすることもできないでいるのだ。
何か言い返したいのに、息のできない魚みたいに唇を開いたり閉じたりすることしかできない。
見ず知らずの、私よりかなり若そうなこの子に、そんなことを言われても何も言い返せない。
自分が情けなくて、苦しかった。
だって、きっと、彼の言う通りだから。
今の私はどんな顔をしているだろう。
とてつもなくみっともなくて、惨めな顔に違いない。
見ないで。誰にも見られたくない。
涙が溢れてくるのを感じて、顔を伏せた。
彼はそれ以上なにも言わず、そっと私の左肩に手を置いた。
大きなてのひらの温もり。
……温かい。
そこから堰を切ったように涙が止まらなくなって、喉の奥から抑えられない嗚咽が漏れた。
膝が崩れてその場にしゃがみこむ。
私、何してるんだろう。
明が私を不必要と決めた時から、嘘でもいい、嘘でもいいから誰かに必要とされたかった。
独りじゃないと思いたかった。
泣いて泣いて、泣いて。
明が部屋を出て行ったあの日のように、泣き疲れて眠るまで子供みたいに声をあげて泣いた。
もう一生分の涙は流したような気でいたのに、次から次へと溢れて止まらなかった。